雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

かしこきものは

2014-08-15 11:00:37 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第百七十九段  かしこきものは

かしこきものは、乳母の夫こそあれ。
帝・皇子たちなどは、さるものにて、おきたてまつりつ。
そのつぎつぎ、受領の家などにも、ところにつけたる覚え、わづらはしきものにしたれば、したり顔に、わが心ちもいと寄せありて・・・。
     (以下割愛)


恐れ入った存在となれば、乳母の夫にとどめをさしますねぇ。
帝や皇子方などは、当然のこととして、ご遠慮申し上げさせていただきます。
それに続く家々や、受領の家などでも、その家なりに一目置いた扱いをしますので、大きな顔をして、すっかりその家の主人の後ろ盾を得たような気持ちになって・・・。

妻が乳を飲ませた子を、まるで自分の子のようにして、女児はそれほどでもないが、男児には、べったりと付き添って世話をし、少しでもその子の気持ちに背くような者を、迫害したり、讒言したりと始末に負えないが、この男のやり口を、率直に忠告する人もいないので、いい気になり、偉そうな顔つきで、人に指図などをする。

それでも、子供がごく幼いうちはね、少々値打ちが下がります。
乳母は、主人である母親の前で子供に添い寝をするので、夫は一人部屋で寝ている。だからといって、他の所へ行けば、「浮気をしている」というわけで、文句を言われることでしょう。無理に妻を呼び戻して同衾していると、
「ちょっと、ちょっと」
と呼ばれるので、乳母は、冬の夜などは、脱いだ着物を探し回って子供の部屋へ戻っていくが、残された男は、さぞ情ないことでしょうよ。
それは、高貴なあたりでも同じことで、もっと窮屈なことが増えるだけでしょうねぇ。



もっと時代が下っても、例えば春日の局といった例があるように、権力者の嫡男の乳母やその夫は大変な権勢を得ているようです。
さすがの少納言さまでも少々妬みがあるようで、乳母の夫の不便でみっともない部分を並べて、うっぷんを晴らしているようです。

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