雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

除目の予言者 ・ 今昔物語 ( 31 - 25 )

2024-11-13 09:49:13 | 今昔物語拾い読み ・ その8

      『 除目の予言者 ・ 今昔物語 ( 31 - 25 ) 』


今は昔、
[ 欠字。天皇名が入るが未詳。]天皇の御代に、豊前の大君(トヨサキノオオギミ・舎人親王の子孫で栄井王の子。805 - 865。本話では、桓武天皇の第五皇子の子孫となっているが、舎人親王は天武天皇の第五皇子で、本話の間違いであるが、故意かも知れない。 )という人がいた。
柏原の天皇(カシワバラノテンノウ・桓武天皇。)の第五皇子の御孫であったが、位は四位で、官職は刑部卿兼大和守などであったが、この人は、世の中の事をよく知っており、性格は正直で、朝廷の政治の良い事も悪い事もよく判断して、除目(ジモク・ここでは、地方官を任命する儀式。)が行われる時には、国司に欠員のある国について、それぞれ順番を待ち望んでいる人々を、その国の等級に合わせて推量し、「誰それはあの国の守に任じられるだろう。誰それは理由を申し立てて望んでも、きっと任じられまい」などと、一国一国について話すのを人々は聞いて、望みが叶った人は除目の終った翌朝には、この大君を誉め称えた。
この大君が推し量る除目の予想は絶対に間違わなかったので、世を挙げて、「やはりこの大君の推し量る除目は大したものだ」と称えた。

除目の前にも、この大君のもとに大勢集まってきて訊ねると、推量したままに答えた。
「任じられるだろう」と言われた人は手をすり合せて喜び、「やはりこの大君は大した人だ」と言って帰っていった。
「任じられまい」と言うのを聞いた人は大いに怒り、「何という事を言うのだ、この古大君(古は軽蔑して言う。)め。道祖神(サエ・悪霊を防ぎ、旅路の平安を守る神として大切にされたが、その一方で、性神・芸能神的な最下級の神として異端視された。ここでは後者の意味。)を祭って、気が狂ったに違いない」などと言って、腹を立てて帰っていった。

さて、このようにして、「任じられるだろう」と予測した人が任じられず、他の人が任じられた場合、「これは、朝廷の人選が悪いのだ」と言って、除目を非難し申した。
そこで天皇も、「豊崎の大君は除目をどのように言っているか」と言って、そばに仕えている者に、「行って尋ねて参れ」と仰せられた。
昔は、このような人も世間にはいたのだ、
と語り伝へ
たるとや。

     ☆   ☆   ☆ 


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