雅工房 作品集

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役行者 ・ 今昔物語 ( 巻11-3 )

2016-08-18 13:46:00 | 今昔物語拾い読み ・ その3
          役行者 ・ 今昔物語 ( 巻11-3 )

今は昔、
本朝文武天皇の御代に役の優婆塞(エノウバソク)と申す聖人がおいでになった。
大和国の葛上郡茅原村の人である。俗姓は賀茂、役(エ)の氏である。長年、葛木山に住み、藤の皮を着物とし、松葉を食物として、四十余年その山の洞窟を住いにしていた。
清い泉を浴びて心の垢を洗い清め、孔雀明王の呪を唱えていた。ある時には、五色の雲に乗り仙人の洞に通った。夜は、多くの鬼神を召し使って、水を汲ませたり薪を拾わせた。それゆえ、この優婆塞に従わない者はいなかった。

ところで、金峰山(ミタケ・きんぷ山のこと)の蔵王菩薩は、この優婆塞の祈祷により生じた菩薩である。それで、常に葛木山と金峯山との間を通っておられた。そのために、優婆塞は多くの鬼神を召し集め、「我が葛木山から金峰山に参る橋を架けよ。我が通う道としよう」と命じた。
鬼神たちはこの命令を承って嘆いたが、許そうとしない。それどころか、さらに責めたてたので、すっかり困ってしまった。
と言っても、優婆塞の厳しい命令から逃れることも出来ず、鬼神たちは大石を運び集め、準備を整えて橋を架けはじめた。その時、鬼神たちは優婆塞に、「私たちは極めて醜い姿をしています。それで、夜ごとにこっそりとこの橋を架けたいと思います」と言って、夜々(ヨナヨナ)急いで造っていた。
すると、優婆塞は葛木の一言主(ヒトコトヌシ)の神を呼び、「お前は、何の恥じることがあって姿を隠すのか」と責めた。「そう言われるのなら、とても橋は造れません」と一言主の神が言うと、優婆塞は怒って、呪によってその神を縛り、谷の底に置いた。

その後、一言主の神は都の人に乗り移り、「役の優婆塞は、すでに謀を企てていて、国を滅ぼそうとしています」と訴えた。
天皇はこれをお聞きになって驚き、役人を遣わして優婆塞を捕えさせようとしたが、優婆塞は空に飛び上って捕えることが出来ない。そこで役人は、優婆塞の母を捕えた。優婆塞は、母が捕えられたのを見ると、母の身代わりになるため自ら出てきて、捕えられた。
天皇は、その罰として優婆塞を伊豆国の島への流罪とした。

優婆塞は、流罪先において、海上に浮かんで走ることは陸上で遊んでいるようであり、山の峰にいて飛び回ることは鳥が飛ぶがごときであった。昼の間は、朝廷にはばかって配所に居たが、夜には、駿河国の富士の峰に行って修行した。そして、罪が許されることを願い続けた。
三年経って、朝廷は優婆塞に罪がないことが分かって、召し帰され・・・
    ( 以下、欠文となっている)

     ☆   ☆   ☆


* 優婆塞とは、役行者(エンノギョウジャ)として知られている人物のことである。
* 冒頭の、文武天皇となっている部分の天皇名は、意識的に欠字となっている。具体的に名前を記述することに問題があったのかもしれない。
* 「葛木の神は醜い」という逸話は、古典に時々登場している。この項は、途中で欠落してしまっているが、楽しい逸話が述べられていたのではないかと残念である。

     ☆   ☆   ☆

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