銀を取られる ・ 今昔物語 ( 27 - 28 )
今は昔、
世間で白井の君(シライのキミ・伝不祥)と呼んでいる僧がいた。最近亡くなった人である。その僧は、もとは高辻東洞院に住んでいたが、後には烏丸(カラスマ)小路の東、六角小路の北で、烏丸小路に面して、六角堂とは背中合わせの所に住んでいた。
ある時、その僧坊に井戸を掘ったが、土を投げ上げた時の音が、石にあたった金属のような音だったのを聞きつけて、白井の君は不審に思って近寄って見ると、銀の鋺(カナマリ・金属製のおわん)であったので、取り置いていた。その後、それに別の銀を加えて、小さな提(ヒサゲ・酒や水を注ぐのに用いる口つきの容器。)を作らせて持っていた。
ところで、備後の守藤原良貞(実在の人物)という人に、この白井の君は何かの縁があって親しくしていたが、ある時、その備後の守の娘たちが白井の君の僧房に行き、髪を洗い湯浴みをしたが、備後の守の下女があの銀の提を持って、例の鋺を掘り出した井戸に行き、その提を井桁の上において、水汲み女に水を入れさせていたが、取りそこなって提を井戸の中に落としてしまった。
その落すところを、たまたま白井の君も見ていたので、すぐに人を呼んで、「あれを引き上げよ」と命じて、井戸に降ろして捜させたが、どこにも見えないので、「沈んでしまったのだ」と思って、多くの人を井戸に降ろして捜させたが見つからないので、驚き怪しみ、さらに人を集めて水を汲み干して捜させたが見つからない。ついに、見つからないままになった。
この事について人々は、「もとの鋺の持ち主の霊が、取り返したのだろう」と言い合った。そうだとすれば、つまらない鋺を見つけて、別の銀を加えたうえで取られてしまったのでは、えらい損をしたものである。
これを思うに、きっと霊が取り返したのだと思うが、極めて恐ろしい事だ。
此(カク)なむ語り伝へたるとや。
☆ ☆ ☆
今は昔、
世間で白井の君(シライのキミ・伝不祥)と呼んでいる僧がいた。最近亡くなった人である。その僧は、もとは高辻東洞院に住んでいたが、後には烏丸(カラスマ)小路の東、六角小路の北で、烏丸小路に面して、六角堂とは背中合わせの所に住んでいた。
ある時、その僧坊に井戸を掘ったが、土を投げ上げた時の音が、石にあたった金属のような音だったのを聞きつけて、白井の君は不審に思って近寄って見ると、銀の鋺(カナマリ・金属製のおわん)であったので、取り置いていた。その後、それに別の銀を加えて、小さな提(ヒサゲ・酒や水を注ぐのに用いる口つきの容器。)を作らせて持っていた。
ところで、備後の守藤原良貞(実在の人物)という人に、この白井の君は何かの縁があって親しくしていたが、ある時、その備後の守の娘たちが白井の君の僧房に行き、髪を洗い湯浴みをしたが、備後の守の下女があの銀の提を持って、例の鋺を掘り出した井戸に行き、その提を井桁の上において、水汲み女に水を入れさせていたが、取りそこなって提を井戸の中に落としてしまった。
その落すところを、たまたま白井の君も見ていたので、すぐに人を呼んで、「あれを引き上げよ」と命じて、井戸に降ろして捜させたが、どこにも見えないので、「沈んでしまったのだ」と思って、多くの人を井戸に降ろして捜させたが見つからないので、驚き怪しみ、さらに人を集めて水を汲み干して捜させたが見つからない。ついに、見つからないままになった。
この事について人々は、「もとの鋺の持ち主の霊が、取り返したのだろう」と言い合った。そうだとすれば、つまらない鋺を見つけて、別の銀を加えたうえで取られてしまったのでは、えらい損をしたものである。
これを思うに、きっと霊が取り返したのだと思うが、極めて恐ろしい事だ。
此(カク)なむ語り伝へたるとや。
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