雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

後悔先に立たず ・ 小さな小さな物語 ( 1601 )

2023-02-02 08:48:12 | 小さな小さな物語 第二十七部

サッカーW杯カタール大会、いよいよスペイン戦です。
歴史的とまで評されたドイツ戦の勝利、そして、わが国のサッカー解説者の誰もが予想しなかったコスタリカ戦と、結果は天と地ほどの差がありましたが、世間の熱気は衰えることなく、大盛り上がりの状態が続いています。
こうした大きなスポーツ大会では、にわかファンがどっと増えるのはふつうのことですが、昨今は、微に入り細に入った解説のお陰が、にわか解説者、にわか監督が巷に満ちあふれている観さえあります。人々は、言った者勝ちとばかりに、数時間前に身につけたばかりの知識を、百年ほども積み重ねてきた持論のように蘊蓄を述べ、スペインに勝利するための戦略もすっかり出来上がっているかのようです。
そして、ふと弱気の虫が顔を出すと、「あの時になあ・・」と惜しまれるプレーの幾つかをつぶやいています。

「後悔先に立たず」ということわざがあります。「事が終った後で悔いても、とりかえしがつかない」といった意味ですが、私はこの言葉がとても好きで、当コラムでも何度か使わせていただいています。
と言いますのも、およそことわざなどという物は、どこかピリッとした物があり、日常生活の中で納得してしまうような一面を突いている、といった言葉が多いものですが、この言葉の場合は、「言葉のままじゃないですか」と突っ込みを入れたくなってしまうのです。
だって、「後悔」の意味は「後になって悔いること」ですから、それが「先に立たない」と説明されても、「そうですか・・」と納得するしかありません。
しかし、その何ともいえない「当たり前さ」が、とても好きなのです。

この言葉は、誰が最初に使ったのかは分からないようですが、1200年代のわが国の文献にはすでに登場しているようですから、誕生したのはそれ以前ということになります。
つまり、おそらく千年もの昔から人々の間でもまれながらも、今なお度々お目にかかる機会があるということは、この言葉には、それだけの説得力と共感させる魔力のような物があるのかもしれません。
不祥事を起こした場合の会見などで、起こしてしまったことを後悔し反省して、「二度とこのような過ちは起こしません」と述べるのが定番のようですが、語り手も聞き手も、とても無理なことを承知の上で成り立っているような気がします。残念ながら、「後悔は先に立たない」のですから、事が起きてから後悔するしかないと言うことなのでしょう。

私たちの日常生活においても、「今少し注意をしていたらよかった」ということは、数限りなくあります。しかし、慎重な行動が大切だといっても、「星が落ちてくるのが心配だ」と安全策を探し回っていては、日常生活は成り立たなくなってしまいます。
もしかすると私たちは、過ちの山を築きながら生きているのかもしれません。その多くの過ちのほとんどは、「後悔先に立たず」を楯にして、乗り越えているのでしょう。
ただ、過ちの中には致命的なものもありますし、自分では些少と思っていても、相手の人には大変なダメージを与えているということもあります。そう考えれば、何もかもを「後悔先に立たず」を楯にするのは正しくなく、常に相応の注意を払うべきだということになります。
しかし、やはり、私たちは多くの過ちを犯します。そうした私たちの小さなサークルを守っていく手段の一つは、人の過ちに可能な限り寛容であることではないでしょうか。
だって、「後悔先に立たず」なのですから。

( 2022.12.01 )


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