都市と楽しみ

都市計画と経済学を京都で考えています。楽しみは食べ歩き、テニス、庭園、絵画作成・鑑賞、オーディオと自転車

新国立競技場はRFPが未だに用意できない:専門の力欠如は陥穽

2015-08-03 04:08:30 | 都市計画

 衆愚制とか集団無責任が今回の新国立競技場開発迷走の背景だが、原因は明確なRFP(Requirements for Proposal) ( https://en.wikipedia.org/wiki/Request_for_proposal )がないからだ。

要点は:

①敷地要件:高さ、景観(視野での占率、調和)、形状、色彩、交通、動線 等

②規模:面積、席数 等

③機能:避難経路、サブ・トラック、バック施設、搬入路、空調、音響 等

④事業性(Feasibility):収容人数、イベント種類、稼働日数

⑤応募要件:応募資格、審査方法、権利、停止条件

 この中で先回の応募で欠落したと推察されるのが

①敷地要件 と ③機能 ④事業性

だ。デザイン(というよりスタイリング)のみを大型開発の経験もない安藤忠雄にまかせ、①、③、④は事務局機能のJSCおよび文部科学省も補完できなかった。

 このうち、①敷地要件から問題提起したのが槇文彦さんだ。「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」に詳しい。( http://www.jia.or.jp/resources/bulletins/000/034/0000034/file/bE2fOwgf.pdf )当方は都市計画が専門のため、敷地の持つ歴史、景観、そのうえでの高さ規制、形状や見えがかりのコントロール案が用意されてしかるべきと判断する。しかし、ザハ案が当選した経緯からは、充分な用意が無かったと推察する。なぜ、敷地要件が大切かというと、公共建築は公共資産である都市景観や歴史の破壊をしてはならないからだ。欧米のコンペでは当たり前すぎる要件で、市民の同意などを停止条件にする場合もある。

 ③機能 においては陸上競技のサブ・トラックがない割に、豪華な施設や博物館などが多いと報道にある。なにが必要要件で、なにが追加要件かの区分がなくお手盛りに近いとの批判もある。専門家不在で進めたのではないだろうか。あたかも、ばらまき行政を彷彿とさせる、一時期林立した多目的(ホール)は無目的(ホール)の事例のようだ。さらに、駅への動線や混雑評価もなされているのだろうか。8万人の退出は混雑として大きい。TDLでもここまでの人数とピーク性はないと考える。(花火の後の混雑が問題なのと同じで、順次ゆっくり帰る仕組みが必要)

 

 ④事業性の確認は、過大投資の防止と将来的な累積赤字回避のため、充分に検討するのが当然だ。屋根がないとコンサートができないため収益悪化というは理解できない。

 当方が80年代後半に海遊館の事業企画に携わったが、要点は年間集客で200万人/年とEconomic Research Asso.

(Cambridge MA)ともに予測した。幸い25年間で200万人/年は確保できている。予測は、他の施設との魅力度比較、商圏人口と来訪パターンの検証、館内容量と来館人数検証など地道な検証と分析が基本となっていた。そのため、当時破格の投資額と施設容量、水量が実現できた。

 単純な事例比較でも今回の投資は大きい。東京でも採算に乗るスポーツ施設は東京ドームくらいではないか。公共の資金の使用にあたり、イニシャルの投資額とランニングの収益を明確に予測し、その根拠も開示するのは当然だ。

 ザハが折角とれたコンペに未練があり、どうにか関与しようとしているが裁判などで明確なスタンスと判断を国民に開示すべきだ。

(追記)

槇文彦さんの「小さくつくる」、「オリンピック後残る」の会見は涙が出る。ここまで東京を思っているのか。建築家ではなく都市計画家の矜持を感じる。

このようなことにかかわらずにもっと設計や教育もできる。恐らくは「秘めたる怒り」があるのだろう。都市計画では方向性が違うが尊敬すべき生き方だ

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