散々勧められてやっと読んだ。
大御所のインフラ関連の著作。歴史資料を読破し、その頃の世界をさらに伸長してから、現代に知見を活かすスタンスには頭が下がる。
ローマ時代というとBread & Circus (同名の自然食料品店がCambridge Central SQにあったのを懐かしく想い出す)位と思っていたら深い深い。
インフラをハードとソフトに分け、しかも全部を網羅していないと言い切っている。しかも橋の荷重(Dead Load(通行荷重)、 Live Load(自重:石なら設計に必要))などは素人を割り切って専門家の見解を聞いているのは清々しい。
キーワードは「平和(パクス)ロマーナ」で、この状況があったからことインフラ整備と維持ができたとある。ピンカーの「暴力の人類史」と似た見解だ。パクス・ロマーナ崩壊後14世紀までは暗黒の中世だったとも。
さらに、インフラの整備の背景を5W1Hのように分析しているが、ローマ時代で明らかなのに、例えば京都の街の道路、水道、下水などはなんで分からないのか訝る。
知見を羅列する:
・ハードなインフラ:街道、橋、港湾、神殿、広場、公会堂、楕円競技場、半円形劇場、円形闘技場、上下水道、公衆浴場
・ソフトなインフラ:安全保障、治安、税制、通貨、郵便、貧者救済、育英資金、医療、教育
・「食」、「職」、「安全」
・ローマ皇帝(王政、共和制、帝政に移行):安全保障、内政、公共事業
・ローマの街道と同時代における中国万里の長城の比較:交通と遮断(匈奴)の対比
・街道は4層で、コンクリート不使用、路面はむくりがあり排水が両側、4mの車道と両側3mの歩道
・街道は歩道と車道、盗賊対策で広い安全地帯が両側に→80年代のアメリカの公園は犯罪防止で同じ発想
・馬が倒れない石畳とメンテナンス、馬車は鉄の輪で騒音だったのでは
・石のアーチなどのトンネルと山腹は盛土形式で石積みが外側で応力を受ける
・橋は石造り、道路レベルでつなぎ凱旋門も付加
・公道、軍道、支線、私道で30万km
・史料はメディア、読み取りが必要
・多様な交通手段:馬車、騒音と渋滞もあったかも
・水道:利権と規制、配分、水道・井戸・雨水の並立
・競技場は下が偉い層、上が女性と下層民
・医者と教師を優遇、医学は主にギリシャ人をアウト・ソーシング
・公衆浴場は衛生と、前の広場が子供の遊び場
良い本だ。巻末の絵の資料も楽しめる