金木犀、薔薇、白木蓮

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映画:『アレクサンドリア』

2012-02-29 15:15:12 | 映画の感想
映画『アレクサンドリア』(アレハンドロ・アメナーバル監督)
★★★★★

4世紀末のエジプト、学問の都市・アレクサンドリアには、
アレクサンドリア図書館長の娘で、美しく聡明な
哲学者・ヒュパティアがいた。
新興宗教のキリスト教がアレクサンドリアでも勢力を伸ばし始め、
古代の神々を侮辱された学者たちは、キリスト教徒たちを襲撃。
争いの末、下されたローマ皇帝からの裁きは、
異教の神殿と図書館の破棄を命じるものだった。
この事件をきっかけに、アレクサンドリアでは
キリスト教とユダヤ教のみが許されることになるが、
今度はキリスト教とユダヤ教の対立が起こり、
天体の運行の謎に心奪われ、信仰を持たないヒュパティアも
その渦の中に巻き込まれていく。

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あんまり一般受けしなさそうだなあ……とは思うんだけど、
これはよかった! 2回見た!

宗教の不寛容から起こった悲劇と、学問の敗北を
実在の女性哲学者ヒュパティアの生涯を通して描いているんだけど、
これ、スペイン映画なのね。
キリスト教徒の割合がかなり多いスペインでこの映画を
作るというのは、かなりの冒険では?
古代からの神々を崇める学者たちも、ユダヤ教徒たちも、
決して非がないわけじゃないし、
宗教自体が陥りがちな側面を描いているんだけど、
この描き方はかなりキリスト教批判に寄っていると思う。

ヒュパティアへの恋心と奴隷身分への不満を背景にして、
だんだんキリスト教に心惹かれていったダオスが、
混乱の最中にヒュパティアになじられ、
結局自分は彼女にとって奴隷でしかありえないというのを
思い知らされて、キリスト教徒の側についてしまう……
という前半のこの下りはよかった。
(後半は「結局何にもしてないじゃん」って感じだったけど)
「キリスト教以前」がユートピアだったわけではない、と
いうことも、彼を描くことでちゃんと表現していたし。

キリスト教徒だった教え子のシュネシオス(ブラピ似)が、
眠るヒュパティアに「姉であり母」と呼びかけて
別れを告げる場面とか、
彼女に言い寄っていた教え子のオレステスが
アレクサンドリアの長官となってから自分の身を危うくしてでも
彼女を守ろうとしたところは、
ヒュパティアが美しいというのもあるだろうけど、
ローマ・ギリシア以来の知と学問への崇拝が
彼女への思慕に結びついてるのが感じられていい。
オレステスなんか、最初しょうもない男だと思ったけど、
めちゃくちゃいい男じゃないか。

途中の「中略」みたいなぶった切りと、衛星写真みたいなCGは
ちょっと興ざめ。
衛星写真は、天体の運行と人間の営みを対比させる意図があったと
思われるんだけど、いかにもCG!って感じだし、
ないほうがよかった気がする。
あと、気になったのは船の上での実験。
船が進む速度よりも、物体が落下する速度のほうが
断然早いのだから、物体がマストの真下に落ちるのは
証明になっていないと思った。
コメント
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