その患者さんは夜中に激しい胸痛発作に見舞われ意識不明に陥った。救急車で搬送されてきた時はかなり厳しい状態であった。まさに「心臓発作の否定」及び「食べ過ぎのせいだ」という患者さんの表現は、当時横須賀海軍病院の講習で学んだものとまったく同じであった。奥様からは「なんで押さえつけてでも心電図をとってくれなかったんですか?」と嫌味をいわれた。しかし嫌がる大の大人をおさえつけて心電図をとることが可能であったのだろうかと疑問にも思った。熱血医療ドラマなら「あなたの命を救いたいんだ! 黙って心電図とらせなさい!」とでも言うのだろうが、そんなのは虚構の世界である。現実でそんなことやったら患者さんから訴えられるか、あるいは「暴走医療! ヒーロー気取りの若手医師」などとマスコミから格好の餌食にされる。こちらからは返事をしなかったが自分も相当後味が悪かった。恨まれようと感謝されようと医療とは結果がすべてなのである。