最近では医療とは、契約書をかわさない暗黙の契約によって成り立っているといわれているが、それはお互いの信頼関係が土台にあることが要求される。しかし昔はこんな面倒くさいことは言わなかった。「とにかくよくわからないので先生にすべてお任せしますよ」という場合も多かった。そうなるとすべて下駄を預けられたわけなので責任は重い。おいそれと放棄するわけにはいかず、それこそ最後まで患者さんの面倒を見ることが父の時代の開業医であったような気がする。自分が医者になった当初は米国帰りの医師から「向こうじゃ、入院すると週刊誌よりも厚い説明書と同意書が渡されて、患者はそれに目を通し納得したら同意書にサインするんだ。一つでも納得しないとそれだけで一仕事だ」と聞かされた。米国は訴訟大国である。どんな小さなことも、すべてに同意書が要求される米国の医療は異常だとおもった。そして日本ではこんなことはありえないと思っていた。