意識状態が正常になった患者に経過を説明したところ、「・・・そうだったんですか、実はインスリンを打ったんですが、配達の仕事が急に入ったんで食事をしないで飛び出してきたんですよ」と。一連の彼の行動は低血糖状態のものであったのだ。こんな非典型的な低血糖症状なぞ教科書には一言も書いてない。長いこと救急医療をやってきて低血糖発作の患者も随分診察したが、こんな状態などそのときまで見たことがなかった。話は低血糖状態によるひき逃げ事故の裁判に戻るが、地裁の判決は無罪であったそうだ。はねられて亡くなった高校生のご家族の心中はいかばかりであろうか。お悔やみを申し上げます。しかしながらとりあえず有罪、無罪の是非をここで論じるつもりは毛頭ない。疑問に思うのは「医学的根拠」なのである。