座席をみてみると年のころなら60台中頃であろうか、少し小太りの白髪交じりの作業着らしきジャンパーをきたおっちゃんが座っていた。片手にはワンカップ、そしてもう片手には競馬新聞、そして胸のワイシャツのポケットにはかじりかけのイカの足がささっていた。由緒正しい昭和の「常磐線おっちゃん」であった。周囲には若い女性やら、通勤帰りのスーツ姿の人もいた。しかしここは常磐線なのである。ちょっとおしゃれすぎて、かえってそれが嫌味に感じることもある中央線ではないのだ。まるで進化して生息数が減ってきたカブトガニを見つけたような驚きと嬉しさを感じた。しかもこのおっちゃんはお約束のようにきちんと楊枝で「チッチッ」と口を鳴らしてくれている。そして胸のポケットからイカの足を取り出し、それの端を口にくわえながら行儀悪そうにクチャクチャと噛み続けているのである。そうである。これが正しいあり方なのである。しばらくは遠い昔になくなったこの風景を眺めていた。