数年前の話である。区役所で用足しのためバスに乗った。車内はちらほらと立っている乗客がいる程度ではあったが、座席はすべて埋まっていた。自分はバスの後方あたりでつり革につかまって立っていたが、自分のすぐ横には高齢女性が手すりにつかまって立っていた。平日昼の時間帯である。乗客のほとんどが高齢の方であった。着座している乗客もすべて高齢者のようで、この立っている高齢女性に席を譲る気はなさそうである。バスがいくつ目かの停留所につくとバスの前方の席が一つ空いた。その立っていた高齢女性はバスの後方から、座ろうとしてその席に向かったのである。ところがその停留所からやはり年恰好も似たような高齢女性がバスに乗り込んできた。その女性も席にすわろうとして小走りにその席に向かったのである。こうなるとまるでイス取りゲームである。ほぼ同時に二人はイスのところにたどり着いたのだが、次の瞬間、バスが発車した。運命の分かれ道であった。