夏祭りの最中で一番楽しみだったのは、町内会で用意してくれた冷たい飲み物であった。横に小さな蛇口のついた大きなホーロー引きの給水薬缶(おそらく数リットル以上入る大きさである)に角型の数kgもする大きな氷を2個ほどいれて水と氷イチゴ用のシロップをドバドバといれてかき混ぜたものであった。まあ見るからに派手な赤い液体でいかにも合成着色料の色であったが、これが冷たくて甘くてとにかく旨かったのである。思い出の中で美化されているのだろうが、これより旨いと思った飲み物はなかったくらいである。しかし後年、大人になってから同じレシピで作って飲んだがちっとも旨いとは思わなかった。やはり炎天下で神輿を引き、喉の渇きが最高潮の状態での冷えたシロップだったからであろう。それは理解できるのだが、でも何であんなものがあんなに旨かったのか不思議である。それは人間の味覚というものが単に舌に分布する味蕾の数だけに左右されるのではなさそうだということの証拠なのかもしれない。