氷で思い出したが、自分が小学生の頃はうちの医院の向かいに氷店があった。父がここ巣鴨に開業したての頃は冷蔵庫などはあまり普及しておらず、氷の塊を入れた冷蔵庫が全盛だったようである。この重さ数kg以上もある大きな四角い氷を買うときは、たぶん当時は何貫目といった単位で売られていたのだろうが、荒縄で氷塊をしばってお客はそれをぶらさげて持ち帰っていた。この氷塊を切り出すのは、大きなぎざぎざの刃がついた鋸で「シャッシャッシャッ・・」と音をたてて手際よく小分けにされて切り出されていた。製氷室から出された大きな氷塊を小分けに切り出す様は圧巻であった。鋸を引くたびに氷クズが煌めきながら飛び散った。そしてこの煌きと氷を切る音が自分の夏の風物詩になった。「シャッシャッシャッ・・」 この音を聴くたびに涼味を感じるのは学童期における自分への刷り込みによるものであろう。今の子供がこの音を聴いても涼味を感じるわけがない。時代はかわる、である。