
95歳の誕生日、寝たきりでも目出度いのでしょうか。
病院の集会所で、「ハッピバスディ・トゥユー」の合唱がありましたが、母はそれがかすかに聞こえる病床で虚空に眼をやっていました。
私は「ハッピバスディ・トゥユー」にあわせて母の唯一麻痺していない左肩を静かに叩いてやりました。
寝たきり病人たちの病棟は薬品の匂いに混じってかすかに糞尿の匂いがします。私は、そこで母に会うたびに、胃が痛くなります。
母を見ているのがつらいので、肩をなぜながら病室の窓の外などを見ています。そんなときに限って、分かるのかどうかは不明ですが、母は遠くを見ている私の視線を追うのです。
ハッピバスディ・トゥユー ハッピバスディ・トゥユー ハッピバスディ・トゥユー・・ 私の原罪をなじるように歌が続きます。
私は途方にくれて母の左肩に手を置いたまま佇むのです。
ハッピバスディ・トゥユー ハッピバスディ・トゥユー ハッピバスディ・トゥユー・・・
母は生まれてしまったのです。そして、私も・・。
それがハッピイであるのかどうかは大きなお世話です。
でも、母も私も、どうしようもなく生まれ、今に至っているのです。