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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

『ライオンの花嫁』 シューマン&シャミッソー

2013-12-18 02:05:55 | よしなしごと
 パソコンのディスクトップが煩雑なので、少し整理をと思っていたら、『ライオンの花嫁』というフォルダが出てきた。もちろん心当たりはある。
 昨年の今頃、あるところでの発表のためシューマンについて懸命に勉強していて出会った彼の歌曲の詩の一編なのだが、かなり強烈でその結末も悲惨なので、ひと通り読んだ後も捨てるのはもったいないと思って残しておいたものだ。考えてみれば、いかにもロマン派好みの内容ともいえる。

 シューマンの作品31番『三つの歌』の1番目の歌詞に相当するもので、詩はアーデルベルト・フォン・シャミッソー(1781年~1838年)によるものである。この人、もともとはフランス人で、その仏名は、ルイ・シャルル・アデライド・ド・シャミッソー・ド・ボンクールという長ったらしい名前なのだが、もっぱらドイツ語で書いたためドイツの詩人として知られている。

 ただし日本では、詩人としてよりも、『影をなくした男 ペーター・シュレミールの不思議な物語』というメルヘン風の物語作家としてのほうがよく知られているだろう。
 しかしながら本業はあくまで詩人、その代表作は『女の愛と生涯』という連作詩で、やはりシューマンによって曲が付けられている(作品42)。

               

 このシャミッソー、フランス人のくせにもっぱらドイツ語で作品を発表していたので、ドイツではそれを顕彰し記念する意味で、ドイツ以外のひとでドイツ語での優れた文学作品を発表したひとに対して、「シャミッソー賞」を設けて毎年これを表彰している。
 日本人では、多和田葉子さんがそのドイツ語での作品を評価され、1996年に受賞している(彼女の芥川賞受賞は1993年『犬婿入り』)。

 さて、「ライオンの花嫁」に戻ろう。その歌詞の邦訳(訳者不明)を下に掲げておく。
 冒頭に「ミルテ」が出てくるがこれは「銀梅花」という花で、掲げた写真を見ていただきたい。花嫁のブーケなどに使用されるというが、いかにもという感じである。
 なお、同じシューマンに、『ミルテの花』(作品25)という歌曲集があるが、こちらの方は、1840年9月12日の結婚式の前日、「愛する花嫁へ」と添え書きをしてクララに贈られた歌曲集で、クララの父親の反対もあって、法廷闘争までも経てやっと愛するクララと結婚することができるというシューマンの幸せと愛で溢れている作品である。

 対照的に下の『ライオンの花嫁』の方は暗い曲調で、歌の出足はロシア民謡の「トロイカ」(長調ではなく単調の方)に少し似ている。




   ミルテを飾り 花嫁の宝飾を身につけて
   檻番の娘、バラの乙女が
   ライオンの檻の中へと足を踏み入れた、ライオンは横たわる
   主人の足元に、まとわりつくように

   力強き獣は、かつては野生で気が荒かったが
   従順で賢そうに今や主人を見上げている
   若い娘は、優しげに喜びにあふれて
   愛おしそうに彼を撫で そして涙を流す

   「あたしたち もうずいぶん長いこと経ってしまったのね
   子供のときからずっと遊び友達だったけれど
   あたしたちずっと好き合っていたわね
   そんな子供時代も もう過ぎ去ってしまった

   お前も力に満ちて揺するようになったわ、思いもしないうちに
   お前の豊かなたてがみの 王様のようなその頭を
   あたしも大きくなったのよ、わかるでしょ、あたし
   もう幼稚なこと考えてる子供じゃないの

   ずっと子供のまま お前のそばにいられたらいいのにね
   あたしの強くて、忠実で、正直なライオンちゃん
   でもあたし行かなくちゃなんないの、みんなが決めちゃったんだけど
   遠くの国へと 知らない男の人に連れられて

   カレは思ったの あたしってキレイだと
   あたしプロポーズされて、話は決まっちゃったの
   髪に花輪もあるでしょ、あたしの良いお友達さん
   涙で目がぼやけちゃったわ

   あたしの言ったこと良くわかったかしら? 怖い目で見てるのね
   あたし行っちゃうの、あなたもおとなしくしていてね
   あそこにカレが来るのが見える、もうあたし行かなくちゃ
   じゃああげましょう、お友達、あなたに最後のキスを」

   ライオンに娘の唇が触れたとき
   檻が震えたのが分かったろう
   そして彼が檻のそばに若者を見たとき
   恐怖が捕えた 不安な花嫁を

   ライオンは檻の出口のところに立ちはだかった
   尻尾を振りまわ し 力の限りに咆えたのだ
   娘は哀願し、命令し、脅かした
   外に出ようと、だが怒りに燃えた彼はそれを拒んだ

   檻の外では動転した叫びがあがる
   若者は叫ぶ:「銃を持ってこい
   奴を撃ってやる、一撃で倒す!」
   怒りに駆り立てられ ライオンは泡を吹く

   哀れな娘は思い切って戸口に近づこうとしたが
   すっかり変わってしまったライオンは主人に襲いかかった
   美しい姿は、無残な餌食と化し
   血まみれに引き裂かれ 塵にまみれる

   大切な血を流してしまい
   ライオンは遺体のそばに悲痛な姿で横たわって
   悲しみと痛みに茫然としていたが
   弾丸がその心臓を貫き 命を奪い去った


 



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