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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

別れの感激・そのときもらったもの 八五歳ヨーロッパ一人旅

2024-08-11 17:38:52 | 旅行

 ライプチヒからベルリン中央駅経由でワルシャワ行き列車でポーランドへ移動する。七時間の列車の旅。
 ライプチヒ駅までK氏が見送りに来てくれる。ここまでのドイツの旅は、ほとんどがおんぶにだっこのK氏の庇護によるものだった。ここからがほんとうの一人旅だ。

 しかし、K氏の私へのケアーはこれで終わったのではなかった。彼は私にひとつの包みを渡していったのだ。「昼食時は列車の中、そのための弁当を作ってきた」と。何という心配り、これからは一人という私の心細さを和らげてくれるにじゅうぶんだった。

 やがて発車のベルが鳴ろうかというときだった。もうひとつのハプニングが起こった。昨夕の食事をともにしたZさんが駆けつけてくれて、花を一輪と、旅の幸運を招くというタグをバッグにつけてくれたことである。
 昨夕の宴は、一期一会のこととして終わったと思っていた私には、まさに意表を突く続編だった。

 この歳になるまで、何度もの別れを経験している。そのうちには、駅頭でのものもむろんある。しかしこれは、忘れ難いものとなった。K氏の気配りとそれに文字通り花を添えてくれたZさんの好意。
 列車に乗り込み、見送る人との間に無為な時間が流れ、それがやや間抜けに感じられてしまうことがある。しかし、今回は違った。この人たちとできるだけこの空間にともにいたい、そう思った。

 しかし、列車は発車した。ライプチヒには二日しかいなかったのだが狭いリング内で馴染みの箇所がけっこうできたこと、K氏宅へ何度も訪れその生活ぶりを目の当たりにしたこと、K氏に関連する人たちに逢うことができ楽しい宴がもてたことなどなど、その中身は豊かであった。それだけに離れがたい思いもあった。

 K氏、並びにZさんに頂いたモノたちのその後を記しておこう。

          

              ワルシャワ行き列車
 
 まず、用意してもらった弁当だが、これは車中でのトラブルのため食べることができなかった。というのは、ベルリン中央駅でワルシャワ行きに乗り換えたのだが、指定された車両に乗り込んだところ通路が大混乱していて進むことができない。どうやら通路の横は六人掛けのコンパートメントになっているようなのだが、それらコンパートメントのどの扉も開かず、乗り込んだ客が中へ入れないまま通路がどん詰まりになっているようなのだ。

 怒号に近い声が上がり混乱がいや増しに増すなか、乗務員らしい男が二人ほど現れ大声で事情を説明し始めたようなのだ。言葉はわからないが、どうやらこの車両は使わないので、それぞれを別のところへ案内するから切符を見せろといっているようなのだ。
 
 私の番になった。切符(といっても旅行社発行のA4の印刷物だが)を見せるとうなずき、ついて来いという。私の乗るはずだった車両の2,3輌辺り後ろのあるコンパートメントを開けてここに座れという。見ると、知り合いらしい中年の女性が二人いて、犬も一匹いる。いきなり入ってきた東洋人の老人を観て、怪訝そうな、というより拒否に近い顔つきをしている。車掌がこの間の成り行きを説明したのに納得したのか、私の荷物の収納を手伝ってくれた。
 彼女たちは窓際でひっきりなしにしゃべくりまくっているし、私は通路側でその間には犬が陣取っている。

          

              ポーランドへ入った

 やがて、途中の駅で男性客が一人また一人と乗り込んできて、コンパートメントは満席になった。こんな状態のなかで、K氏が用意してくれた弁当を広げるわけには行かない。ましてや隣りは犬だ。諦めた。

 やがてワルシャワに着く。駅から徒歩一〇分ほどの所なるホテルにチェックイン。三泊の予定だがその間、ベッドメイキングには入らないと申し渡される。へ~、と思ったがそのほうが気楽でいい。枕銭につて気にすることはないし、その間、誰も入ってこないのもいい。
 寝小便をしたら困るが、ダブルベッドだからその際は反対側で寝ればいいだけだ。

 土地勘を掴むために、ホテルの周辺を散策する。ホテルのすぐ近くにコンビニ風の店を見つけた。一通りの商品(食品)を見て回る。ただし、今日の目当ては種類だ。300ml ほどの缶ビールとフルボトルの1/4 サイズの赤ワインを買う。
 K氏が用意してくれた弁当を今宵のディナーにするのだ。

      

 写真を見てほしい。別途、皿があったら盛り付けて立派なプレート料理になるところだ。
 手前には卵焼きと大粒なさくらんぼ、その右はピクルス風の漬物だ。その奥はロースハム。おにぎりは二個あって、一個はしそ味、そしてもう一個はふりかけ味風だ。左側には、おにぎり用の海苔を別途湿気を防いでつけてくれていたが、この海苔自体が良いものなので、おにぎりに巻くことなく一品でいただく。デザート用のバナナも一本付いている。

          


 これらを、ホテルの窓から西日が射し始めた風景を見ながらいただく。K氏の細やかな気配りがこもったこの旅最高のディナーだ。
 混み合ったコンパートメントで犬の隣りで食べなくてほんとうによかった。

           


 Zさんからもらった花だが、ガーベラだろうか。ホテルのベッドメイキングや掃除が三日間来ないのを幸い、洗面所に飾ってワルシャワにいる間毎日眺めていた。黄色系のガーベラの花言葉は「究極美」「究極の愛」「親しみやすい」「優しさ」だとか。

      
 それから、やはりZさんがバッグに取り付けてくれた旅の幸せを祈るタグ、実は旅の最後の最後にアクシデントがあったのだが、それをも圧して、こうして無事帰宅できたのはこのタグのおかげだろう。いまそのタグは、私の手元にある。

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