昨年9月のリーマン・ショックの影響は、震源地米国や欧州の方が深刻と言われましたが、ここのところ回復傾向が著しくなっています。一方、それほどのダメージがないと言われていたはずの日本は、政府による緊急経済対策、在庫調整の進展と海外経済の回復などにより、企業業績は回復しつつありますが、経済の核となるべき個人消費はさっぱりダメですね。
低価格を売り物にしたH&Mやフォーエバー21などが人気を博していますが、世の中全体がそういう方向に一気に振れてしまって、ジーンズが何と800円だ、600円だとなっています。消費者の立場からすれば、安くていいじゃないかと思うでしょうが、世の中全体がこういうベクトルに振れると、行き着く先はデフレです。インフレがいいとは言いませんが、極端に物価が下がれば、製造業・卸売業・小売業など関係する企業に入る収入も下がります。そこで働く人(立場を変えれば消費者)の収入も減ります。ますます物価は下がります。これがデフレのメカニズムです。
では、深刻だったはずの欧米で経済が回復し、そこまで深刻ではなかったはずの日本が折角克服したデフレの危機を迎えているのか?そのカギは、少子高齢化にあるのではないかと思います。日本は既に人口減少社会を迎えています。つまり、今後どんなに頑張っても、消費は増加しないということです。生産性を向上させれば経済成長は出来ますが、経済成長の中心となる消費の原動力は何といっても人口増加です。人口が増えなければ、製造業などはどんどん外国へ出ていってしまいます。
そういう人口減少の現実がここ一~二年顕著に出てきており、国民全体も身構えているように思います。つまり、お金がないわけではないのに、今後日本は縮んでいき、坂を下っていくのだから、贅沢は控えよう、出来るだけ節約しようとなっているのです。ストック(貯蓄)はないのに、将来への期待から、三種の神器(冷蔵庫、洗濯機、白黒TV)や3C(カー、クーラー、カラーTV)など高額な耐久消費財を購入していた高度成長期とはまったく逆のことが起きているのです。
今、民主党政権がやらなければならない成長戦略は、ストップ・ザ・少子化です。景気は心理的な「気」の影響が非常に大きいものです。経済学者の予測が当たった試しがないのは、経済学者のせいではなく、経済が科学ではなく、心理学だからです。子どもを生みたいと若い人たちが思うような政策(雇用対策から、子育て支援、託児所・保育園・学童施設の充実、ワークライフバランス、男性の育児参加促進まで総合的な政策が必要です)をとれば、人口増加に転じるのには時間がかかっても、「気」の方は明るい方向に転じます。逆に、それがなければ、どんなに金をバラまく政策を打っても効果は限定的です。
民主党政権の予算編成での概算要求では、マニュフェストに忠実であろうとするあまりか、初政権で中身が分からず官僚に切り込めていないためか、税収が減少する中、概算要求額が膨らみ、税収を超える国債発行が必要になりそうな勢いです。無駄を省くと言っていた政策からすると、はなはだ努力不足です。子ども手当などの施策はありますが、ストップ・ザ・少子化に対してもそこまでの危機感と戦略は感じられず、ちょっと単なる「大きな政府」になる危険性を感じないわけではありません。
流石にヤバイと思ったのか、行政刷新会議がスタートし、事業仕分けを行うそうですが、無駄は省いた上で、ぜひ、ストップ・ザ・少子化に本気で取り組んでほしいものです。そうしないと野球をする子も減る一方ですからね。