トヨタの自由思考空間もまた、発明家の並外れた自由思考精神が隷従土壌にハンマーで
打ち込まれたことによって出来ています。
こういうと奇異に思われるかも知れません。
トヨタ方式の創始者、大野耐一はそんな発明家ではないのでは、と。
たしかにそうです。だがこの精神の源はトヨタグループ創業者豊田佐吉の生き様にあります。
ここでは多くを語れませんが、明治維新の年に誕生した彼の、幼少時から死ぬ直前まで続いた
創意工夫と発明に捧げた生涯は感動的です。
途中の成功でなした財に安住することなく、物欲を離れて発明第一に生きて死んだ。
この姿に触れたら、この人を好きにならずに済む人間は少ないのではないかと思います。
トヨタ社の中枢を担う幹部は伝統的にみな佐吉を愛し佐吉精神を深く理解した人物ばかりです。
余談ですが、豊田一族もそういう佐吉に心を打たれた人々の集団です。
それ故この一族はみな佐吉の姿に心を浄化されていて、権力争いなど起こしようがないのです。
<ミニ佐吉を造る>
トヨタの工場長だった大野耐一も佐吉をこよなく愛する一人でした。
人は他者を深く敬愛するとその分身のようになっていきます。大野もそうでした。
彼は自分の工場の従業員を全員、ミニ佐吉にしようとしたのです。
愛する佐吉のように創意工夫に生きる人物に、生産現場において一人一人を育て上げようと
奮闘努力した。その結果がトヨタQCサークルだったのです。
大野が現場に注いだ精魂は次のエピソードにもうかがえます。
一人の社員にある仕事を、明日までにやってこいと命じた。
翌日、要求通りの製品をもってきた社員を大野は叱りつけました。
言われたとおりの仕事で、「おまえの創意は何処にも入っていないではないか!」と。
叱られる従業員も大変ですが、このように根気よく一人一人に自由思考をたたき込んでいった
大野のエネルギーも常人離れしています。
隷従気質の濃い精神土壌の国ではそこまでやらねばならないのです。
大野はほとんど戦いの日々を送りました。
こうして造られていった精神も含めたら、トヨタ方式は外部者が簡単に模倣吸収できるものでは
ないことがわかります。
<共有するは佐吉愛>
トヨタ方式も、社内に多くの自由思考空間を形成しています。
その中の人間の任意連携が卓越していることが全社の一体性の鍵になります。
それにはやはりここでも、成員たちが共有する精神的なものがいるのです。
京セラの稲盛は、それに自らの世界観を供給することでもって応じました。
だが佐吉は(従って大野も)世界観を供給する人ではありませんでした。
ここで一般社員が共有するのは、幹部と同じ佐吉への尊敬と愛情です。
静岡県湖西市にある「豊田佐吉記念館」にはその精神が保存されています。
そこには佐吉の幼少時からの生活と生涯や、彼が木製の織機を工夫することからはじめ、
遂に英国の自動織機に勝る織機を作り上げるまで、改善していった製品たちが並べられています。
それにさらに夢の飛躍を遂げさすべく途中まで画期的な発明が進んでいて、
突然の死で中断した無念の仕掛品もあります。
トヨタ社に入社した社員は必ずここを訪れます。
その他、幹部たちは折ある毎に佐吉精神を一般社員に説いて回ります。
このようにして社員全員が佐吉精神を共有しているのです。
この側面を経営ジャーナリズムも経営学者もほとんど伝えていません。
だから豊田市にある同社を見学に来る企業人たちは現場で、その一見新興宗教風の雰囲気に
驚くことになります。
案内する広報担当者は「我々は三河の田舎宗教団体ですから・・・」と照れ隠し気味に
応じているようです。
+++
トヨタ方式全体の導入を希望する企業は国内に多いし、韓国にもあります。
いわゆる伝道師も少なからずいます。だが多くの試みが失敗に終わっている主要原因は、
精神模倣の困難さにあります。
そうしたなかで、トヨタ方式にはその中で編み出された部分的技術に、模倣可能なものもあります。
「ムダ取り」や「ジャストインタイム」手法などはそれです。
それをトヨタ方式と思っているのが世間の実情です。
+++
稲盛も大野(佐吉)も物事を自由吟味する精神が並外れて強烈な大才でした。
そういう人物が、企業という限定的な閉鎖空間の中で、ほとんど独占的な決定権を手中にして
実現したのが稲盛方式、トヨタ方式でした。
模倣による広域普及はありえないのです。
だったらどうしたらいいのか、日本は!
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