福岡に足を運んだついでに、福岡アジア美術館で開催されている「山下清展」を観た。まともに山下清の絵に向かい合ったのははじめてかもしれない。
貼絵の繊細で精緻なことに瞠目する。光沢のあるものとないもの、貼る前に縒ってちぎったコヨリ、石垣のように隣り合う紙に寄り添ったサイズ。そんな数々の小さな命が世界を創りあげている。木々、草、人、それから背景が溶けあうような色彩も素晴らしい。
点描のようなペン画も良い。フェルトペンで素朴にしかし丹念に描かれている。特に「ストックホルムの夜景」と題された、山下清がヨーロッパ放浪中に描いた絵では、点々による夜の闇が、建物や彫像と一体化しており、吃驚してしまう。
正直に言って、これまで山下清の美術世界をろくに知らなかったことを恥じてしまった。それほどに嬉しかった。
会場には、山下清が使ったリュックや認識票やゆかたなどが展示されている。その中に、8ミリカメラがあった。ベルハウエル(Bell & Howell)のダブル8だろうか。帰ってから、ユルゲン・ロッサウ『Movie Cameras』(atoll medien)という大判のやたら重たい本で確認してみると、どうやら「7125 Duozoom」のようだ。レンズは9-27mm/F1.8、メッキのテカリがいかにもかつてのアメリカだ。本人の撮った映像は残っているのだろうか。