Sightsong

自縄自縛日記

岩国基地のドキュメンタリー『鉄条網とアメとムチ』、『基地の町に生きて』

2011-07-20 08:19:27 | 中国・四国

NNNドキュメント'11」で、『鉄条網とアメとムチ ~苦悩する基地のまち~』2011/7/17、日本テレビ・山口放送製作)が放送された。主に沖縄と山口県岩国市の基地拡大をめぐるドキュである。

民主党は、基地の町に対する自民党政権の「アメとムチ政策」を踏襲した。

沖縄県嘉手納町83%の面積は、嘉手納基地によって占められている。昨年の深夜・早朝の騒音発生回数は5320回を数え、難聴や低体重児も少なくないという。既に、第3次爆音訴訟がはじまっている。ここで520年務めた宮城町長2011/2/17退任)は、「アメとムチ」を逆利用して、さまざまなものを国から引き出したと評価されている。1996年、前年の米兵少女暴行事件を契機とした「島田懇談会」での補助事業費1000億円のうち220億円が嘉手納町に充てられた。

しかし、このようなハコモノによる活性化は期待を下回り、失業率は依然として高い。嘉手納町再開発に伴い誘致した沖縄防衛局(家賃収入1.6億円)で働く500人は昼間人口であり、町民税を払っていないのだという声がある。

また、地元の若者は、那覇新都心や北谷町で基地が返還されたが、「内地企業」が入ってきて、ウチナンチュは時給700800円でしか採用されない、バカにしているのか、と怒りの声をあげている。これはきっと、基地返還に伴う経済効果を見る際に重要な視点である。

山口県の岩国基地では、1km沖合の新滑走路が完成し(2010/5)、騒音被害軽減の謳い文句があったはずが、1.4倍の拡大・機能強化のみをもたらしている。そして、厚木基地の空母艦載機59機が移転する計画であり、120機以上を抱えることとなれば、極東最大の嘉手納基地を超える規模となる。愛宕山は、沖合滑走路埋め立てのため削られ、住宅建設の目的が破綻、防衛省が米軍住宅のため買収しようとしている。もとの地権者は、宅地として買い戻すつもりだった、と怒りを隠さない。田村順玄・岩国市議は、保守派の多い山口県にあって、反対した当時はまるで反逆者のように言われたのだという。

20063月、米軍再編に反対する井原市長(当時)のもと、米軍基地に関する住民投票が行われ、圧倒的に反対票が多い結果となった(投票率58.68%No 43433人、Yes 5369人)。それを受けて国はムチを振るい、市庁舎建設費用35億円を凍結した。井原市長は辞職、出直し投票を行うが、自民党の福田候補に敗れる結果となった。即座に補助金凍結は解除され、さらに134億円の再編交付金10年間)が与えられている。まさに民意のずれ、「アメとムチ」による住民意思の抑圧であった。

沖縄の「普天間移転」と称される辺野古の新基地建設も同様の状況があった。高専、みらい館、マルチメディアなどハコモノを作るが、やはり失業率は高い(2005年には12.5%)。現地の土木業者は、「工事の雇用を期待して内地から帰ってくる人が増えた」のだと説明する。そんな中、名護市では、基地反対を掲げる稲嶺市長が当選した(20102月)。岩国と同様に、国のムチ=米軍再編交付金の停止があった。しかし、それでも20109月の市議会選では、市長派が圧勝した。

大浦湾近くに建てられた物産館「わんさか大浦パーク」は、建設費の9割を占める3.6億円は北部振興事業の予算として出されたものの、年間2000万円の運営費に充てられる予定だった米軍再編交付金がカットされた。それでも経費節減と各区積み立てなどでしのいでいるという。

この20115月、国頭村安波への基地誘致の動きが表面化した。見返りは高速道路延長であり、工事であり、基地雇用である。沖縄選出の下地幹郎衆議院議員の動きもあった。これがどのような結果を生むのか、まだわからない。

ドキュは、基地政策が一部の弱い立場の人々に負担を強いるものであり、場当たり的だと締めくくっている。

岩国の動きについては、3年前の同じ番組枠「NNNドキュメント'08」での『基地の町に生きて ~米軍再編とイワクニの選択~』2008/6/15、山口放送製作)においても報じられていた。やはり田村順玄・岩国市議が登場し、「米軍のやりたい放題」「民主国家のやることではない」と批判している。

ここで明らかにされる国と県と市の密約。米軍のNLP(夜間着艦訓練)は滑走路を空母に見たてて夜中のタッチ&ゴーを繰り返すものであり、実は1992年、山口県・岩国市と防衛施設庁(当時)との議事録において、「NLPを将来も受け入れざるを得ない」としていたことがわかっている。騒音がなくなる、墜落の危険性がなくなる(戦後、ここでの墜落事故は29件)との謳い文句により、1997年に滑走路沖合移設工事が開始し(思いやり予算、2400億円)、単なる基地拡大となったばかりか、厚木の空母艦載機59機の呼び水となった。その前の密約であり、当然、住民はそのカラクリを知らなかった。そして愛宕山は削られ、いまでは米軍住宅用地のターゲットとなっている。

岩国基地は1930年代、旧日本軍に接収された土地であり、それが敗戦とともに米軍のものになった。集団移転の要望を出す住民たち。岩国基地から飛び立つ飛行機にはクラスター爆弾が搭載されている。

参照
『基地はいらない、どこにも』(岩国基地)
『基地はいらない、どこにも』(岩国基地)
『けーし風』読者の集い(9) 新政権下で<抵抗>を考える(井原・元岩国市長インタビュー)
東琢磨・編『広島で性暴力を考える』(岩国の米兵による暴行事件)
問題だらけの辺野古のアセスが「追加・修正」を施して次に進もうとしている 環境アセスへの意見(3)(岩国と普天間)
今こそ沖縄の基地強化をとめよう!11・28集会(1)(岩国と嘉手納)
『国策のまちおこし 嘉手納からの報告』に見る「アメとムチ」
屋良朝博『砂上の同盟 米軍再編が明かすウソ』
渡辺豪『「アメとムチ」の構図』
『現代思想』の「日米軍事同盟」特集
久江雅彦『米軍再編』、森本敏『米軍再編と在日米軍』

●NNNドキュメント
『沖縄・43年目のクラス会』(2010年)
『シリーズ・戦争の記憶(1) 証言 集団自決 語り継ぐ沖縄戦』(2008年)
『音の記憶(2) ヤンバルの森と米軍基地』(2008年)
『ひめゆり戦史・いま問う、国家と教育』(1979年)、『空白の戦史・沖縄住民虐殺35年』(1980年)
『沖縄の十八歳』(1966年)、『一幕一場・沖縄人類館』(1978年)、『戦世の六月・「沖縄の十八歳」は今』(1983年)