ニコラス・エチェバリーア『カベッサ・デ・バカ』(1991年)を初めて観たのは、1997年の「メキシコ映画祭」においてだった。その後英語字幕版のVHSを入手し、何度も観ている。改めて観ても面白い。
「メキシコ映画祭」パンフレット(1997年)より
カベッサ・デ・バカはスペイン・セビリア出身の探検家である、というと聞こえはいいが、「白い侵略者」であり「treasurer」だった。1528年にフロリダに上陸、8年間の放浪と虜囚を経て、母国スペインの組織的な侵略者たちに遭遇する。コルテスの上陸とアステカ王国征服より後である(上陸地点を含め、「メキシコ映画祭」パンフレットの解説は間違っている)。
バカが住民に捕えられ、両腕のない小人の王や魔術師に翻弄され、そのうちに自らが死んだ女性を生き返らせる魔術師と化す様は、まさに、かつてラテンアメリカ文学を表現する際に用いられた「魔術的リアリズム」そのものだ。上陸時の仲間に遭遇するも、彼らは空腹のあまり、死んだ仲間の肉を食べては生き延びていた。
そして8年後、彼らはスペインの軍隊に取り囲まれる。侵略者は、大聖堂を建築するのに奴隷がさらに何百人も必要だ、住民に人望のあるお前が集めてくれ、と命令する。バカは既に侵略者ではなかった。建築中の大聖堂や奴隷たちを指さし、ここはスペインなのか?と絶叫する。もちろん新たに「発見」された土地は、コロンブス後、スペイン人の見地からはすべて法的にスペインのものだと見なされていた。
増田義郎『物語ラテン・アメリカの歴史』(中公新書)より
一方、バカのかつての仲間は、救出された後、得意になって酒を飲みながらほら話を繰り広げる。虜囚されていたときに「3つの乳首を持つ女」と交わるように強制されたが他は普通だったぜ、と笑わせ、黄金の町があったと場を盛り上げる。黄金帝国を探す野望が漲っていた時代だった。