ギル・エヴァンスのオーケストラに、何とローランド・カークがゲスト出演している録音が日の目を見たと知り、ようやく探しだした。『Live in Dortmund 1976』(Jazz Traffic、1976年)である。
1曲目と最後の5曲目が、ビリー・ハーパー作曲の「Thoroughbred」と「Priestess」。とは言えテナーサックスはジョージ・アダムスであり、ハーパーは参加していない。アダムスの熱いソロも良いし、ジョン・ファディスの高く高くへと攻め続けるトランペットも、ルー・ソロフの落ち着いたトランペットも悪くない。ただ、全体的なサウンドは、ギルの録音としては凡庸なものに聴こえる。
4曲目の「Freedom」は、ジミ・ヘンドリックスの曲である。この録音の前に吹き込んだジミヘン集『Plays the Music of Jimi Hendrix』(RCA、1974-75年)の勢いを続けていたということだ。しかし、これも印象は薄い。どうやらもとの録音では、ジョン・ファディスがヴォーカルも担当していたということで、できれば編集しない録音を聴かせてほしかった。
このアルバムの価値は、何と言っても、ローランド・カークの客演にある。2曲目のセロニアス・モンク曲「Rhythm-A-Ning」ではサックス類を、3曲目のカークのオリジナル曲「Theme for the Eulipions」ではそれに加えハーモニカを披露している。
カークは前年(1975年)に倒れ、このときは半身不随、片手だけで演奏していたはずだ。それにも関わらず、循環呼吸による息継ぎなしのサックスとハーモニカ、サックス2本の同時演奏(以前ならもっといけた)、そして何と言っても長いソロの中で変調し、悦びと哀しみを惜しみなく溢れださせる音色を、聴くことができる。
やはりカークは唯一者だった。翌年の1977年、カークは再度の発作であの世へと旅立つことになる。