ジャカルタからシンガポールに向かう機内で、エリカ・ロバック『Call Me Zelda』(New American Library、2013年)を読了。
いまはミャンマーのヤンゴン。到着早々にヘンな時間に寝てしまい、夜中に起きてこれを書いている。
エリカ・ロバック(Erika Robuck)という女性作家の小説を読むのは初めてだ。プロフィールを見る限り若い人のようである。
『ゼルダって呼んで』というタイトルにあるように、これは、スコット・フィッツジェラルドの妻ゼルダ・フィッツジェラルドの物語である。1920年代の「ジャズ・エイジ」に華麗な交遊で社会の花形になったゼルダだったが、小説がはじまる30年代初頭には、既に心を病んでいた。
精神病院に入院したゼルダは、看護婦の主人公アンナに心を開き、やがて、自分専属になってもらうまでに信頼するようになる。その一方で、夫スコットとの確執があった。スコットは、自分の小説の題材としてゼルダの体験を利用し、ゼルダ自身が手記を発表することを頑なに阻止しようとしていた。そして朝から泥酔し、時に自分の弱さをさらけ出しては泣きじゃくる弱い存在でもあった。
ゼルダの病状は悪化し、遂に、アンナにも口をきかないようになってしまう。しかし、まったくそれを認識していないわけではなかった。ゼルダが消えて10年位が経ち、突然、アンナのもとにゼルダからの手紙が届く。自分の来し方を辿り、かつて書き記して夫に隠し通した日記を探してほしいというのだった。アンナは夫に子供をゆだね、ゼルダが生きた跡を追ってはポラロイド写真を撮る旅に出る。そのとき、スコットは既に他界しており、ゼルダも伝説の人と化していた。そして、アンナはついに日記を発見する。
最初は自己満足型の軽い小説に思えていたが、実は存外に面白く、最後は駆け抜けるように読み終えてしまった。手放せなくなって、ジャカルタのホテルでこれを読みながら1時間のエクササイズをしていたりして。
どこまでが史実でどこからが創作かわからないのだが、ゼルダのエキセントリックな言動やスコットに対する愛情と憎悪などにはなかなか奥深い印象を覚えた。また、夫と子供を失った主人公アンナが、ゼルダとの交流をきっかけに、新たな自分の人生を創りだしていく過程を交えた展開も面白かった。最後の日記探索とゼルダとの再会などはスリリング。
ちょっと自己憐憫過多でべたべたな筆致ではあるが。