アレホ・カルペンティエル『バロック協奏曲』(サンリオSF文庫、原著1974年)を読む。
メキシコの鉱山主が、ヨーロッパへの旅行を行う。途中のキューバで召使が死に、そこで気にいった黒人の若者を新たな召使にしながら。
しかし、粋で華やかなメキシコに比べ、スペインはぱっとしないところだった。主は早々にスペインに見切りをつけ、ヴェネチアへと移動する。そこで繰り広げられる饗宴、狂宴。主はアステカ滅亡時の王・モクテスマの格好をするが、その小道具は、征服者コルテスやモクテスマ王の物語をネタとしたオペラに使われてしまう。
音楽は、ヴィヴァルディからストラヴィンスキーまで時代を猛烈に進めてゆく。召使は、その中で、独自のリズムを繰り出して音楽の場を支配、「ジャム・セッション」などと呟く。そして、召使は、それらの音楽を根底から覆すようなルイ・アームストロングの出現を目撃するのだった。
時間を操り、体液とともに噴出してくる人間という怪物のエネルギーには、くらくらと眩暈を感じてしまう。短いながらも濃密極まる巨匠の世界に、やはり呑まれてしまうのだ。
もう1篇の「選ばれた人々」は、ノアのみならず、さまざまな世界においてそれぞれの神を戴く者たちが、巨大な船に多くの動物を載せ、同じ場所に漂着するという物語。このブラックユーモアは、デリダのいう宗教の「秘儀」を茶化しているようである。
近々、この『バロック協奏曲』が水声社から復刊されるようだが、改訳がなされるようなら、また手にとってみようと思う。
●参照
○アレホ・カルペンティエル『時との戦い』(1956年)
○ミゲル・リティンが戒厳令下チリに持ち込んだアレホ・カルペンティエル『失われた足跡』(1953年)