Sightsong

自縄自縛日記

アーチー・シェップ+ヨアヒム・キューン『WO! MAN』

2013-09-15 22:35:23 | アヴァンギャルド・ジャズ

アーチー・シェップ+ヨアヒム・キューン『WO! MAN』(Archie Ball、2011年録音)を聴く。

Archie Shepp (sax)
Joachim Kuhn (p)

おそらく今のところ、アーチー・シェップの最新作。ヨアヒム・キューンとのデュオならば、ふたりとも憎からず想っているわたしが聴かないわけにはいかない。

しかし、駄作とか凡作とか言うつもりは(あまり)ないのだが、どうも何らかの突破力を見出すことが難しい。シェップのブロウはこれまで通りの音色ながら、底なしの深いブルースはそこにはない。キューンの先鋭性もない。ふたりとも、自分自身の真似をしているようにさえ聞こえてくる。

キューンのピアノとのデュオであれば、オーネット・コールマンと組んだ『Colors』(1996年録音)などは遥かにハチャメチャで、かつ美しく、痺れる作品だったぞ。まあ、リラックスした巨匠同士の交歓とでもみなすべきか。

●参照
アーチー・シェップ『The Way Ahead』
『Jazz in Denmark』 1960年代のバド・パウエル、NYC5、ダラー・ブランド
アーチー・シェップの映像『I am Jazz ... It's My Life』
イマジン・ザ・サウンド


フィリップ・K・ディック『ユービック』

2013-09-15 11:37:47 | 北米

ヤンゴンからの帰路に、フィリップ・K・ディック『ユービック』(ハヤカワ文庫、原著1969年)を読む。

思いのほか早く、手持ちの本を読み終えてしまったところだった。念のため電子書籍版を収録したKobo Touchをスーツケースに入れておいてよかった。

近未来(とは言っても、本書が書かれた時点からの近未来であるから、もう過ぎ去ってしまっている)。世界にはエスパーが何人も存在し、社会や産業に入り込んでその能力を活用している。一方、その能力を無化する抗エスパーたちは、エスパーから自らを保護するための機能として、「良識機関」なるビジネスに取り込まれている。

あるとき、抗エスパーたちは、謀略にかかり、半死状態となってしまう。その意識世界において、抗エスパーたちの肉体も、周囲も、時間が急速に遡り、半死から死へと追い込まれようとする。そこに登場する「ユービック」なるものは、さまざまな俗的な商品の形態をとりつつも、エントロピー増大をくいとめる神として闘いを開始する。

混沌とした世界において、正と邪とが戦争を行うという、途方もなく大きなヴィジョンを提示する作品である。後年の『ヴァリス』『聖なる侵入』(1981年)にも共通する世界であり、また、ヴィジョンばかりがあまりにもいびつに大きく、その小説への投影が把握しきれず眩暈がする点も共通している。

半死の意識世界は他ならぬこの世界でもあるといったアナロジイ的な読み方も可能だ。その意味では、この作品は、世界が、無数の並行する流れによって形成されているのだというイメージを強烈に示してくれる。さすがディック。

●参照
フィリップ・K・ディック『聖なる侵入』(1981年)
フィリップ・K・ディック『ヴァリス』(1981年)
フィリップ・K・ディック『空間亀裂』(1966年)
フィリップ・K・ディックの『ゴールデン・マン』(1954年)と映画『NEXT』