Sightsong

自縄自縛日記

1977年の阿部薫

2015-06-27 23:37:09 | アヴァンギャルド・ジャズ

ある方から、阿部薫が亡くなる前年の1977年に行ったサックス・ソロ演奏の記録をいただいた。(ありがとうございます。)

最初に告白しておくと、わたしは阿部薫が好きではない(正確に言うと、持っていた音源をすべて手放してもう何年も聴いていなかったから、「好きではなかった」)。あらためて何度も聴くと、なるほど、文字通り強烈なブローである。内省的でもあり、先の見えない闇のなかに突入し続けた人なのだろう。訓練もおそらくかなり行ったのだろうか、早いフレーズ、力尽きないで吹き切るパワーをもった体躯、喉を開いたようなダミ音から切り裂くような高音までの音色には圧倒される。

ではなぜ苦手「だった」のか。拠って自らを支えるものが、永遠に自らの周りにあるものだけなのではないかという印象を持ってしまうのだ。かっと見開いた目は宇宙を視ているようでいて、実はその辺の棚や壁のシミを視ている。情念とは、ど演歌とは、クリシェである。

この録音においては、やはり阿部薫の迫力と素晴らしさを聴くことができる。その一方で、抽象ではないともあらためて感じてしまう。「Lonely Woman」「Lover, Come Back to Me」、「We Shall Overcome」をネタとして使っているから抽象ではない、ということでもないのだが。つまり、阿部薫を視るわたしの目はまだ落ち着かない。よくわからない。


『ガマフヤー 遺骨を家族に 沖縄戦を掘る』

2015-06-27 22:32:33 | 沖縄

「NNNドキュメント'15」枠で放送された『ガマフヤー 遺骨を家族に 沖縄戦を掘る』(2015/6/21、日本テレビ制作)を観る。

沖縄戦で亡くなった人は約20万人。いまだ遺骨は数多く地下に眠っており、毎年、百人前後が発掘される。しかし、そのほとんどは、誰の遺体なのか特定されない。数があまりにも多く、住民は着の身着のまま避難を強いられたからだ。立派に残っている歯などを使えば、DNA鑑定が可能である。しかし、何かその人と特定できるものが一緒に発掘されなければ、政府は鑑定を認めない。

具志堅隆松さんは、28歳のときから、遺骨を発掘する作業を30年以上もボランティアとして続けておられる。大変なことだ。具志堅さんにとっては、発掘されるとそれは遺骨ではなく「人」なのだという。それだけ重い存在が、何人も、国策の間違いのために眠っている。そしてそれはまだ清算できていないということである。

政府は、DNA鑑定の対象を拡大する方針なのだという。具志堅さんの地道な要請を踏まえてのことか。どうなるか注目である。

●参照
具志堅隆松『ぼくが遺骨を掘る人「ガマフヤー」になったわけ。』
沖縄の渡口万年筆店
比嘉豊光『光るナナムイの神々』『骨の戦世』

●NNNドキュメント
『9条を抱きしめて ~元米海兵隊員が語る戦争と平和~』(2015年)
『“じいちゃん”の戦争 孫と歩いた激戦地ペリリュー』(2015年)
『100歳、叫ぶ 元従軍記者の戦争反対』(2015年)
『日本地図から消えた島 奄美 無血の復帰から60年』(2014年)
大島渚『忘れられた皇軍』(2014年)
『ルル、ラン どこに帰ろうか タンチョウ相次ぐ衝突死』(2013年)
『狂気の正体 連合赤軍兵士41年目の証言』(2013年)
『活断層と原発、そして廃炉 アメリカ、ドイツ、日本の選択』(2013年)
『沖縄からの手紙』(2012年)
『八ッ場 長すぎる翻弄』(2012年)
『鉄条網とアメとムチ』、『基地の町に生きて』(2008、11年)
『沖縄・43年目のクラス会』(2010年)
『風の民、練塀の街』(2010年)
『証言 集団自決』(2008年)
『ひめゆり戦史』、『空白の戦史』(1979、80年)
『毒ガスは去ったが』、『広場の戦争展・ある「在日沖縄人」の痛恨行脚』(1971、79年)
『沖縄の十八歳』、『一幕一場・沖縄人類館』、『戦世の六月・「沖縄の十八歳」は今』 (1966、78、1983年)


Sticks and Stonesの2枚、マタナ・ロバーツ『Live in London』

2015-06-27 08:47:28 | アヴァンギャルド・ジャズ

マタナ・ロバーツの3枚。

以前に、ベースのジョシュ・エイブラムス、ドラムスのチャド・テイラーとのピアノレストリオ「Sticks and Stones」で活動しており、『Sticks and Stones』(482 Music、2002年)と『Shed Grace』(Thrill Jockey Records、2003年)が吹き込まれている。マタナのアルトサックスは管をよく鳴らしきるというよりも、微細なよれ具合やかすれや環境との融合を大事にしたもののようだ。そのため、やはり隙間が大きく柔軟なエイブラムス、テイラーと対等に、音をボール何個分も出し入れする。たまに吹くモンクやストレイホーンのブルースも最高なのだ。

Matana Roberts (as, cl)
Josh Abrams (b)
Chad Taylor (ds)

『Live in London』(Central Control、2011年)は、マタナのクインテット。ここでは、よりクリアでコントラストが高い音になり、押し出しの強いサックスを見せている。土埃にまみれたようなSticks and Stonesでの演奏のほうが好みではあるが、こちらもくっさいサックスが素晴らしい。

Matana Roberts (sax)
Tom Mason (b)
Robert Mitchell (p)
Chris Vatalaro (ds)

マタナについては、メッセージ性の強い「Coin Coin」シリーズのイメージが強いのだと思うが、シカゴAACMが輩出した実力あるサックス奏者として、もっと聴かれていい人である。

●参照
マタナ・ロバーツ『Always.』
マタナ・ロバーツ『Coin Coin Chapter Three: River Run Thee』