小泉定弘『都電荒川線 The Arakawa Line』(1987年)を古本屋で見つけた。東京に密着して活動した写真家である。出版社が書かれていないが、これも私家版なのだろうか。
都電荒川線にはいちどしか乗ったことがないのでよくわからないのだが、表紙の色は車体の色だという。まさに地元愛だ。
1986-87年に、三ノ輪から早稲田までの沿線で撮られた写真群である。モノクロ写真は渋く、昔からの東京の住宅地や商店街の人間臭さもあって、凝視してしまう魅力に満ちている。鉄道を入れると、どうしてもパースペクティヴのような視線に絡めとられてしまいそうなものだが、ここでは、行きかう人やそっぽを向く人、カメラに気づく人と気づかない人などが焼き付けられており、ユーモラスでもある。新庚申塚の駅で、おそらくはホームに向かってくる電車をじっと見る人たちのスナップなんて最高である。
すべてコンパクトカメラで撮られたものだとある。確かに、後ボケの乱れなどを見るとそのような気がする。
氏は定期的に荒川区で写真展を開いておられるはずで、わたしは、今年(2015年)に『漁師町浦安の生活と風景』によってはじめて意識した。来春にも何か展示があればぜひ足を運びたいところ。