Sightsong

自縄自縛日記

テザード・ムーン『Triangle』

2015-12-13 23:43:15 | アヴァンギャルド・ジャズ

テザード・ムーンは、どう考えようとも不世出のピアノトリオだった。なぜか以前すべてのテザード・ムーンのCDを手放してしまったのだが、廉価盤が再発されていて、また聴きたくなって、『Triangle』(King Records、1991年)を手に入れた。

Tethered Moon:
Masabumi "Poo" Kikuchi 菊地雅章 (p)
Gary Peacock (b)
Paul Motian (ds)

メンバー的にも時期的にも、テザード・ムーンがキース・ジャレットのスタンダーズを意識していたことは間違いないように思われる。菊地雅章が、キースの『Bye Bye Blackbird』を聴いて、その前の絢爛豪華なピアノ・プレイからシンプルなものへと移行しようとする姿に感銘を受けたのだとか、菊地雅章のプレイを聴きにきたキースがぼそりと褒めて帰ったのだとか、そのような逸話を読んだ記憶がある。

ポール・モチアンのドラムスは、キースとであろうと、ビル・エヴァンスとであろうと、菊地雅章とであろうと、焼き鈍した柔らかい鋼のスプリングのように伸び縮みする。そしてここでは、菊地雅章のピアノもまた、柔軟に、思索的に、伸び縮みする。ふたつの伸縮する音楽生物に、都度チャンスを見出してはブリッジを架けるのが、ゲイリー・ピーコックのベースか。

テザード・ムーンの演奏を2回、南青山のBody & Soulとサントリーホールで観る機会があった(サントリーホールでの演奏はジミヘン集としてCD化もされた。また聴きたいものだ)。Body & Soulでのこと。モチアンが興に乗りすぎて、自分のドラムソロを引っ張って叩きすぎてしまった。直後に、ピーコックが苦笑いして指で×印を出した。しかし、それも大きな伸び縮みの中にある一コマに過ぎなかった。

オリジナルの名曲「Little Abi」も、スタンダードの「The Song Is You」も、オーネット・コールマンの「Turnaround」も、本当に素晴らしい。吐きそうになるくらい素晴らしい。聴いても聴いても汲み取れないものがある。

●参照
菊地雅章『エンド・フォー・ザ・ビギニング』(1973年)
菊地雅章『ヘアピン・サーカス』(1972年)
菊地雅章+エルヴィン・ジョーンズ『Hollow Out』(1972年)
菊地雅章『ダンシング・ミスト~菊地雅章イン・コンサート』(1970年)
菊地雅章『POO-SUN』(1970年)
菊地雅章『再確認そして発展』(1970年)
『銀巴里セッション 1963年6月26日深夜』


イングリッド・ラウブロック『ubatuba』

2015-12-13 10:16:20 | アヴァンギャルド・ジャズ

イングリッド・ラウブロックの新バンド「ubatuba」のお披露目ライヴをCornelia Street Cafeで観て、それに先立って吹きこまれた新譜『ubatuba』(Firehouse 12、2014年)を楽しみに入手し、何度も聴いている。

Ingrid Laubrock (ts, as)
Tim Berne (as)
Ben Gerstein (tb)
Dan Peck (tuba)
Tom Rainey (ds)

・・・なのだが、どうも相手が鬱蒼とした沼のようで、適当なレビューなどできない感覚。

一騎当千のプレイヤーたちが創り出すプレイグラウンドである。変人ベン・ガースティンのトロンボーンとダン・ペックのトロンボーンとが、その時空間のあちこちにおいて焦燥感にも似た場のエネルギーを励起させ、他者のプレイの隙間を与える。トム・レイニーのドラムスは散発的に爆ぜる爆竹。決して緊密なアンサンブルではなく、それがまた魅力的である。

バンドの目玉はラウブロックとティム・バーンとのサックスふたりの饗宴だろう。ふたりの個性の違いは如実にあらわれていて、それがまた鼓膜と脳を刺激する。ラウブロックは周囲のアトモスフェアを取り込んでいく懐の深い感覚、バーンはあちこちに猛禽類の爪を食い込ませて獰猛に前進する感覚。

このプレイグラウンドからまた意気統合した「うた」が生まれるとしたら、それもまた楽しみなのだ。 

●イングリッド・ラウブロック
イングリッド・ラウブロック UBATUBA@Cornelia Street Cafe(2015年)
ヴィンセント・チャンシー+ジョシュ・シントン+イングリッド・ラウブロック@Arts for Art(2015年)
アンドリュー・ドルーリー+ラウブロック+クラウス+シーブルック@Arts for Art(2015年)
イングリッド・ラウブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
ネイト・ウーリー『Battle Pieces』(2014年)
アンドリュー・ドルーリー『Content Provider』(2014年)
トム・レイニー『Hotel Grief』(2013年)
トム・レイニー『Obbligato』(2013年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、2012年)
イングリッド・ラウブロック『Who Is It?』(1997年)


ギオルギ・シェンゲラヤ『放浪の画家ピロスマニ』

2015-12-13 00:33:16 | 北アジア・中央アジア

岩波ホールに足を運び、ギオルギ・シェンゲラヤ『放浪の画家ピロスマニ』(1969年)を観る。

19世紀後半から20世紀初頭までを生きたグルジアの画家、ニコ・ピロスマニの伝記映画である(慣れないのでジョージアとは呼びたくない)。

衝動で幼馴染に接吻したために家を出て、まったく商売に不向きで乳製品の店はうまくいかず、ちょっとしたことで傷ついて結婚を破談にして、絵ばかりを本能のように描いていた男。外からの毀誉褒貶でさらに傷つき、内にこもって世捨て人のようになってしまう。本当に聖人のような人だったのだろうね。

それにしても、グルジアの石や木でできた家、狭い坂道、広場での宴会、そして何よりもピロスマニの絵に魅せられる。いつかこの国に行くこともあるだろうか。

●参照
はらだたけひで『放浪の聖画家 ピロスマニ』
フィローノフ、マレーヴィチ、ピロスマニ 『青春のロシア・アヴァンギャルド』
ニキータ・ミハルコフ版『12人の怒れる男』