Sightsong

自縄自縛日記

セルゲイ・クリョーヒン/アレクセイ・アイギ『The Spirit Lives』

2016-11-14 20:21:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

セルゲイ・クリョーヒン/アレクセイ・アイギ『The Spirit Lives』(Leo Records、2015年)。セルゲイ・クリョーヒンは1996年に亡くなって20年近くが経つロシアの天才音楽家だが、本盤は、かれに捧げられた2015年のコンサートの記録であり、DVDとCDの2枚組である。DVDの前半はアレクセイ・アイギの音楽、DVDの後半とCDとは同一内容でクリョーヒンの音楽。ともにアイギが指揮とアレンジを行い、ヴァイオリンも弾いている。

Alexei Aigui (conductor, vln)
Alexei Kruglov (sax)
Sergey Letov (sax)
Ekaterina Kichigina (soprano vo)
Erkin Yusupov (tb)
Vyacheslav Guyvoronsky (tp)
Andrey Goncharov (tp, flh)
Denis Kalinsky (cello)
Vladimir Volkov (b)
Konstantin Kremnyov (g)
Sergey Nikolsky (bass g)
Vladimir Zharko (ds)
Arkady Marto (key)
Ad Libitum Orchestra 

アイギのコンポジションも悪くないし(ときどき、なぜかクリョーヒンのテイストが感じられる)、トロンボーンやアイギのヴァイオリンなど見せ場も多いのだが、やはり目当てはクリョーヒン作品である。「Tragedy, Rock Style」、「The Science Section」、「Tragedy in the Style of Minimalism」などにおいて、哀切で、転調してよじれるクリョーヒンのメロディが出てくると、それは嬉しくなる。

だが、ここには、文字通りソ連・ロシアのアンダーグラウンドから暴発し、壁を突き破ったエネルギーも猥雑さも、あまり感じられない。オーケストラが美しくコンポジションを再現するサウンドとは、クリョーヒンのオリジナルは全く異なるのだ。

それでも、クリョーヒンとともに活動したセルゲイ・レートフが、「Tibetan Tango」や「Tragedy in the Style of Minimalism」などにおいて、フリーキーなサックスでサウンドを擾乱し、そして、エカテリーナ・キチギナが、「Donna Anna」において、顎が外れんばかり、喉が裂けんばかりのソプラノヴォイスを響かせるとき、彼岸でクリョーヒンが少し目を覚ましたのだった。「Donna Anna」は、おそらく、クリョーヒンの大傑作『Sparrow Oratorium』(雀語によるオラトリオ)の1曲目「Winter」である。

●参照
「KAIBUTSU LIVEs!」をエルマリート90mmで撮る(2)(2010年)(セルゲイ・レートフ)
現代ジャズ文化研究会 セルゲイ・レートフ(2008年)
ロシア・ジャズ再考―セルゲイ・クリョーヒン特集(2007年)
モスクワ・コンポーザーズ・オーケストラ feat. サインホ『Portrait of an Idealist』(2007年)(セルゲイ・レートフ)
セルゲイ・クリョーヒンの映画『クリョーヒン』(2004年)