Sightsong

自縄自縛日記

是枝裕和『海よりもまだ深く』

2016-12-03 19:55:22 | 関東

病院を午後抜け出して、近くのギンレイホールで、是枝裕和『海よりもまだ深く』(2016年)を観る。

作家志望でありながら自分に甘く、離婚して興信所で働くダメ男(阿部寛)。元・妻(真木よう子)と息子。枯れながら味が熟したような母(樹木希林)。きついが人情深い姉(小林聡美)。ダメ男の上司(リリー・フランキー)。芸達者ぞろい。

もう、ことごとくうまくいかないのに、どれかひとつを諦めて切り捨てることができない人たちの姿である。ゲラゲラ笑いながらも、ダメ男ぶりを観ていると、どうしても身につまされる。誰もなりたかった大人にはなれない。しかし誰もが次に向かっている。

台風一過の朝、ぼろぼろに折れた雨傘がいくつも打ち捨てられた清瀬の駅前。やはり不覚にも泣いてしまった。毎回恥ずかしい思いをする、すみません。是枝監督の映画はなぜこんなに琴線に触れるのだろう。

●参照
是枝裕和『海街diary』(2015年)
是枝裕和『幻の光』(1995年)


マリア・ポミアノウスカ『The Voice of Suka』

2016-12-03 11:57:35 | ヨーロッパ

マリア・ポミアノウスカ『The Voice of Suka』(fortune、2016年)を聴く。

Maria Pomianowska (vo, Bilgoray suka, Plock fiddle)
Aleksandra Kauf (vo, Bilgoray suka, Mielec suka)
Iwona Rapacz (bass suka)
Patrycja Napierała (percussionalities)
guests:
Piotr Malec (tabla) (11)
Marta Sołek (accompanying suka) (12)
Bartek Pałyga (folk bass) (12)

ポーランドとウクライナのヴォーカルアンサンブル・バブーシュキ『Vesna』も実に気持ちが良かったことでもあり、またビョークだって人間のヴォイスに距離が近いという理由でストリングスをまた取り入れたことでもあるし、などと妄想し、弦楽器スカを中心としたこの盤に手を出してみた。

結論、大正解。快適であることはもちろんなのだけれど、それがまるで自然のなかに身を置いているような感覚でもある。ライナーによると、スカとは膝に縦置きする古くからのポーランドの弦楽器(おもに4弦)であり、また、弦は指の爪で抑える。ネックは奇妙に太い。そして弓だけで弾く。人間のヴォイスに近いのも当然のように思えてくる。

驚いたことはそれだけではない。伝統楽器を現在において用いた音楽だと思い込んでいたのだが、実は、スカとは、いちど19世紀にその伝統が途絶えた楽器であった。それを、20年以上の調査によって復活させたということである。ここでの曲はすべて魅力的なのだが、すべて現代の作曲。おもしろい再生である。

ポーランドの伝統音楽は、ペルシャやインドのそれに近いものがあるという。実際に本盤でも、11曲目においてタブラが入り、例によって最後にスピードアップしてゆきカタルシスをもたらしてくれる。

以下のサイトを見れば、マリア・ポミアノウスカがパキスタンの音楽家やヨーヨー・マと共演したりもしている。かなりの広がりがあるということだ。そしてイランの音楽との共通項はいかに。ちょっと掘り下げてみたいところ。

http://www.poloniamusic.com/Bilgoray_Suka.html

●参照
バブーシュキ『Vesna』
イラン大使館でアフランド・ミュージカル・グループを聴いた
若林忠宏『民族楽器大博物館』にイランの楽器があった


後藤篤『Free Size』

2016-12-03 07:13:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

後藤篤『Free Size』(DOSHIDA RECORDS、2016年)を聴く。

Atsushi Goto 後藤篤 (tb)
Mikio Ishida 石田幹雄 (p)
Keigo Iwami 岩見継吾 (b)
Masatsugu Hattori 服部正嗣 (ds)

何しろリーダーのトロンボーンの音に聴き惚れる。トロンボーンは、多かれ少なかれ周囲のサウンドとの間にずれを感じさせる類の楽器に違いない。プレイヤーによって、そのギャップが流麗なハンドリングで埋められたり、逆にゴツゴツさせて異物感を強調したりと、演奏スタイルは多岐に渡る。ここでの後藤さんのトロンボーンは、音楽自体が内部からもりもりと滑り出てくるようで、一聴して個性的とわかる。こうなるとギャップのことなどどうでもよくなる。

そして、石田幹雄さんのピアノにも圧倒される。出番となれば凄まじい出足で、サウンドにぐさぐさと鋭く突き刺さるようなプレイを展開してくれる。強風にも決して倒れない舞踏家のようだ。こんな強靭なピアノを弾く人はそうはいないのではないのか。ピアノソロの間にサブに回って聴こえるトロンボーンの音もまた気持ちいい。

曲も面白い。「Mobius」の2曲なんかでは微妙に宇宙的、未来的(あっ、blacksheep『Mobius』をまだ聴いていなかった)。「三陸ファイトリング」のファンクも良い。そして全体を通じて、つい「日本的」と言ってしまいたくなる哀しさと寂しさがある。いや「中央線的」か。

●参照
秘宝感とblacksheep@新宿ピットイン(2012年)
『blacksheep 2』(2011年)