井上荒野『あちらにいる鬼』(朝日新聞出版、2019年)を読む。
淡々とした筆致ではあるが、それだけにただごとでない人たちの姿が迫ってくる。
でたらめで嘘つきで女好きで奇妙に感傷的な井上光晴。欲望が覚悟と化すほどに振り切れる瀬戸内寂聴。井上光晴の「中の人」でもあった妻。かれらにとっては鬼が人間たる所以だった。鬼とならなければ自分を維持できなかったのか、鬼になってしまって地獄を覗き込み続けたのか。ちょっと後を引く作品。
●参照
井上荒野『ひどい感じ―父・井上光晴』
井上光晴『西海原子力発電所/輸送』
井上光晴『明日』と黒木和雄『TOMORROW 明日』
井上光晴『他国の死』