渋谷のユーロスペースで、ヤン ヨンヒ『スープとイデオロギー』(2021年)。
済州島四・三事件(1948年)と北朝鮮帰国事業(1959年~)との関連には驚いてしまった。
四・三事件では、朝鮮半島分断に反対する島民数万人を米国統治下の韓国警察が無差別に虐殺した。もとより大阪の鶴橋や東京の三河島などに出稼ぎ者の街が出来上がっていたが、さらに密航での脱出者が続出した。映画の語り手=監督の母親も脱出して大阪にたどり着いた。そして北朝鮮帰国事業では、北朝鮮は国力増強のために自国を楽園のように宣伝し、10万人以上の在日コリアンを呼び寄せた。それは膨れ上がる財政負担を削減したい日本政府の思惑とも合致していた。母親も監督の兄3人を北に送り出し、仕送りを続け、毎年のように平壌を訪れていた。(つまり、日本国内では韓国系の民団と北系の総連とがこの問題を巡り対立しており、母親と亡くなった夫とは総連の活動家だった。)
このふたつがどう関連するのか。四・三事件で「アカ」とみなされた脱出者は軍政下韓国では死を意味するし、事件の原因となった韓国政府など信用できなかった。かつての支配国・日本は自分たちのルーツではなく、生活は楽ではない。それゆえ希望をもって北を視ていたということである。そう言われれば納得するけれど、これまで気づくことがなかった。
恐怖のためか秘密を胸の内に留めていた母親が、ある時期に監督にこのことを打ち明けた。そして済州島の研究者たちに体験を語ってから、母親の認知症が一気に進む。記憶の喪失と記憶の掘り起こしとがせめぎあう(!)。
映画の終盤では母親と監督が済州島に渡り、事件から70年後の式典に出席する。僕もその直後に済州島に行って、記念館や写真展を観た。済州島は火山島、黒い溶岩を使って塀が作られている。それはおもしろいものだなと漫然と眺めただけだったのだけれど、映画では、一家が殺された家の塀が敢えて残された場所もあるとの指摘。やはり見ても見えていないことがある。
悲惨な四・三事件をドラマ仕立てで描いた映画『チスル』ともまったく違うアプローチによる、すばらしいドキュメンタリー映画。
済州島の黒い溶岩塀(2018年)
映画の丸鶏もいいけれど済州島の太刀魚もまた食べたい(2018年)
●済州島
済州島、火山島
済州島四・三事件の慰霊碑と写真展
済州島の平和博物館
済州島四・三事件69周年追悼の集い〜講演とコンサートの夕べ
『済州島四・三事件 記憶と真実』、『悲劇の島チェジュ』
オ・ミヨル『チスル』、済州島四・三事件、金石範
文京洙『済州島四・三事件』
文京洙『新・韓国現代史』
金石範、金時鐘『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか 済州島四・三事件の記憶と文学』
金石範講演会「文学の闘争/闘争の文学」
金石範『万徳幽霊奇譚・詐欺師』 済州島のフォークロア
金石範『新編「在日」の思想』
水野直樹・文京洙『在日朝鮮人 歴史と現在』
済州島四・三事件と江汀海軍基地問題 入門編
金時鐘『背中の地図』
金時鐘講演会「日本と朝鮮のはざまで」
金時鐘『朝鮮と日本に生きる』
金時鐘『境界の詩 猪飼野詩集/光州詩片』
細見和之『ディアスポラを生きる詩人 金時鐘』
『海鳴りの果てに~言葉・祈り・死者たち~』
『海鳴りのなかを~詩人・金時鐘の60年』
梁石日『魂の流れゆく果て』(屋台時代の金石範)
仲里効『悲しき亜言語帯』(金時鐘への言及)
林海象『大阪ラブ&ソウル』(済州島をルーツとする鶴橋の男の物語)
金賛汀『異邦人は君ヶ代丸に乗って』(済州島から大阪への流れ)
藤田綾子『大阪「鶴橋」物語』
鶴橋でホルモン(与太話)
三河島コリアンタウンの伽耶とママチキン
尹東柱『空と風と星と詩』(金時鐘による翻訳)
『越境広場』創刊0号(丸川哲史による済州島への旅)
徐京植、高橋哲哉、韓洪九『フクシマ以後の思想をもとめて』(済州島での対談)
新崎盛暉『沖縄現代史』、シンポジウム『アジアの中で沖縄現代史を問い直す』(沖縄と済州島)
宮里一夫『沖縄「韓国レポート」』(沖縄と済州島)
長島と祝島(2) 練塀の島、祝島(祝島と済州島)
野村進『コリアン世界の旅』(つげ義春『李さん一家』の妻は済州島出身との指摘)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(「Nostalgia for Che-ju Island」)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(「Nostalgia for Che-ju Island」)
吉増剛造「盲いた黄金の庭」、「まず、木浦Cineをみながら、韓の国とCheju-doのこと」
「岡谷神社学」の2冊
沖縄国際大学南島文化研究所編『韓国・済州島と沖縄』