アラヴィンド・アディガ『グローバリズム出づる処の殺人者より』(文藝春秋、原著2008年)を読む。
原題は『The White Tiger』(何というダサい邦題をつけたことか)。主にデリーとバンガロールが舞台である。
ジャングルの中でひときわ珍しい動物は白い虎。主人公バルラムは、極貧の家に生まれたが、耳学問の意欲と野心だけはあった。彼らを見下す者から、バルラムは白い虎だと褒められる。そして、バルラムは、地主の家の運転手になり、やがて、主人の都合で大都会デリーで暮らすようになる。
教育の欠如とカースト社会の習慣により、バルラムは、生まれながら限られた領域から逃れ出ることができない。扉が開かれていても、そこは哀しい「籠の鶏」であり、それをくぐる智恵も意識も何もない。バルラムは、ついに主人を殺すことにより、扉の向こう側へと歩み出る。
ひとりひとりなど何でもなく圧殺してしまえる社会は、「閉塞感」と単純に片づけられないほどの巨大な敵である。活路を見出したところで、その巨大な敵の一部になるだけという恐ろしさ。単にインド社会の実状を描いた小説というだけではない。この物語は、がんじがらめの近代社会、日本社会も捉えている。
本作はブッカー賞を受賞しており、さすがの面白さと完成度。それでも、最新作『Last Man in Tower』の方が優れている。他の作品も含め、ぜひ邦訳してほしいところ。
オリッサ州の動物園にいた白い虎
●参照
○アラヴィンド・アディガ『Last Man in Tower』
○2010年10月、バンガロール
○2010年10月、デリー
○2010年9月、ムンバイ、デリー
○PENTAX FA 50mm/f1.4でジャムシェドプール、デリー、バンコク