沢渡朔が伊佐山ひろ子を撮った写真集、『昭和』(宝島社、1994年)を入手した。銀座のBLDギャラリーには署名入りの古本に1万円の値が付いているが、勿論、古本市場ではそんな殿様商売は跋扈していない。
このとき伊佐山ひろ子は40歳を過ぎたころである。粒子の目立つモノクロフィルムで、沢渡朔のカメラは伊佐山の顔と身体と裸に迫る。妙ななストーリー仕立てで、住宅街や病院の診察台で脱いだり、屋根の上で用を足したり、『Cigar』における三國連太郎のように歌舞伎町を彷徨したり。伊佐山のナマの表情も佇まいも、果てしなくウェットで、エロチックだ。以前『Kinky』の写真展で少し併設されていた『昭和』のオリジナルプリントほどのインパクトはないが・・・。
沢渡朔は『Cigar』と同様に、ペンタックスLXと50mmや28mmを使っている筈だ。仕事でニコンやキヤノンを使っていた写真家だが、個人的な作品は1980年の発売時にすっかり気に入ったというペンタックスLXを使うことが多いという。
「90年代に入ってからの伊佐山ひろ子さん(『昭和』)、三國連太郎さん(『Cigar 三國連太郎』)はどっちもLXです。一対一で相手に向き合うとき、個人的に撮るときはLXになる。
とくに女優さんの場合は、密室みたいなところでエロチックな写真を撮っていくわけだから、モータードライブじゃないでしょ。一枚一枚撮っていく、そのリズムが大事なわけだから。レンズも標準一本きり、とかね。現場で相手の動きを見ているうちに、それは自然に決まってくるんです。」(『季刊クラシックカメラNo.8 一眼レフ魂の結晶・ペンタックス』、双葉社、2000年)
この写真家のオンナ写真は本当に巧い。モノクロであればこんなように、カラーであれば『Kinky』のように、女性を撮ることができればきっと本望である。
●参照
○沢渡朔『Kinky』(荒張弘子)
○沢渡朔『Kinky』と『昭和』(荒張弘子、伊佐山ひろ子)
○沢渡朔『シビラの四季』(真行寺君枝)
○沢渡朔『Cigar - 三國連太郎』(写真集)
○沢渡朔『Cigar - 三國連太郎』(写真展)
沢渡さんの女性写真にはフェロモンのような香がありますよね。実相寺昭雄『曼荼羅』のスチル写真集なんかも実は欲しいのですが、ちょっと恥ずかしくて手が出せません。
8000円は高すぎですね。