ポール・オースター『インヴィジブル』(新潮社、原著2009年)を読む。
この小説が出たばかりのころにデュッセルドルフに行き、中央駅の書店で買って飛行機で読み始め、帰国して読了した。昨年柴田元幸による翻訳が出たのであらためて読みはじめたが、時間切れで途中で置いて、そのとき以来9年ぶりにデュッセルドルフを訪れた。中央駅に書店はまだあったが入る余裕がなかった。帰国してから読了した。
そんなこと個人的な偶然に過ぎないのだが、そのことがオースター的だと言えなくもない。それに、やはり個人的には、オースターのブルックリンよりもヨーロッパのほうが偶然力に満ちている。そして本書の舞台はニューヨークに加えてパリでもあるのだが、その描写から街に行きたくなるのはパリのほうだ。(そういえば『ティンブクトゥ』の原書はパリで買ったのだった。)
9年前に本書を読んだとき、延々と続く性描写に辟易させられた。今読むとそれはさほどグロテスクでもなく、垣根のない愛の物語として沁みてきてしまう。それは最近のオースター作品の特徴でもあるし、また、複数の語り、それによる虚実の揺らぎ、ありえないほどの偶然と怖ろしい運命といったオースター要素が、本書にも散りばめられている。しかし印象が他の作品と重なることはない。
何が「インヴィジブル」かと言えば、語り手が視えないこと、リアルが視えないこと、そして視覚を聴覚が乗っ取ってしまうことでもある。それは最後まで読めばわかる。9年前と同じく、読了後数日経っても、思い出すたびにその音が耳の中でこだまする。
やはり読み直してみるものである。
●ポール・オースター
ポール・オースター+J・M・クッツェー『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008-2011』(2013年)
ポール・オースター『冬の日誌』(2012年)
ポール・オースター『Sunset Park』(2010年)
ポール・オースター『Invisible』(2009年)
ポール・オースター『闇の中の男』再読(2008年)
ポール・オースター『闇の中の男』(2008年)
ポール・オースター『写字室の旅』(2007年)
ポール・オースター『ブルックリン・フォリーズ』(2005年)
ポール・オースター『オラクル・ナイト』(2003年)
ポール・オースター『幻影の書』(2002年)
ポール・オースター『トゥルー・ストーリーズ』(1997-2002年)
ポール・オースター『ティンブクトゥ』(1999年)
ポール・オースター『リヴァイアサン』(1992年)
ポール・オースター『最後の物たちの国で』(1987年)
ポール・オースター『ガラスの街』新訳(1985年)
『増補改訂版・現代作家ガイド ポール・オースター』
ジェフ・ガードナー『the music of chance / Jeff Gardner plays Paul Auster』