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自縄自縛日記

貴堂嘉之『移民国家アメリカの歴史』

2018-12-15 08:47:32 | 北米

貴堂嘉之『移民国家アメリカの歴史』(岩波新書、2018年)を読む。

大きな物語としての、ナショナル・ヒストリーとしての、「移民国家」。真実ではあるのだけれど、一方で、それが都合よく語りなおされた言説であることもよくわかる。

19世紀なかばまで、新大陸に移住した黒人はヨーロッパ人の4倍もいた。すなわち「奴隷国家」であった。奴隷制が廃止されても、有償の「奴隷制」が続いた。アメリカ南部の綿花栽培などはその典型であり、19世紀前半に拡がった。「自由労働者」であってもその実は奴隷とは、当然ながら、いまの日本にだってつながっているわけである。

目立つ移民は黒人、中国人、日本人へと変遷していく。そして何かがあるたびに排斥運動が起きた。ここで重要な点が指摘される。20世紀になり、日本人は、あるいは日本政府は、他のアジア諸国と異なる「一等国」の「名誉白人」として特別扱いされるよう願い、働きかけた。人種平等提案をするにしても、それはタテマエであり、自身は中国を侵略し、民族自決を願った朝鮮を武力で鎮圧した。

もちろん日本人を含め、マイノリティの抵抗運動とそれにより勝ち取った権利は高く評価されている。しかし問題は、それが、アメリカという国家を再生する物語に回収されてきたことなのだ、としている。そこにはさまざまな非対称があり、物語から排除された人たちが少なからずいた。

では日本という国の物語はどうか。本書には、岸信介による驚くべき発言が引用されている。日系人の下院議員ダニエル・イノウエが、日系人が米国大使になる可能性について示唆したところ、岸は言い放った。「あなたがた日系人は、貧しいことなどを理由に、日本を棄てた『出来損ない』ではないか。そんな人を駐日大使として、受けいれるわけにはいかない」と。このおぞましく醜い眼差しが、いまも脈々と受け継がれている。

●参照
吉見俊哉『トランプのアメリカに住む』(2018年)
金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』(2017年)
渡辺将人『アメリカ政治の壁』(2016年)
四方田犬彦『ニューヨークより不思議』(1987、2015年)
佐藤学さん講演「米国政治の内側から考えるTPP・集団的自衛権―オバマ政権のアジア政策とジレンマ」(2014年)
室謙二『非アメリカを生きる』(2012年)
成澤宗男『オバマの危険 新政権の隠された本性』を読む(2009年)
鎌田遵『ネイティブ・アメリカン』(2009年)
尾崎哲夫『英単語500でわかる現代アメリカ』(2008年)
吉見俊哉『親米と反米』(2007年)
上岡伸雄『ニューヨークを読む』(2004年)
亀井俊介『ニューヨーク』(2002年)


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