森の案内人 田所清

自然観察「独り言」

カクレミノ(ウコギ科)

2006年08月24日 | 自然観察日記
 太平洋側の照葉樹林にはごく普通の常緑高木樹。葉の形は5~3中分裂するものから分裂しないものまでさまざまで光沢があり厚ぼったい。葉が茂ると向こう側がまったく見えなくなることから「隠蓑」なのだろう。
 庭に盛んに植えられるようになっているから越後でもところどころで見かける。全て低木で、雄大な樹はない。花はいたって地味で気づかないことが多いが、日陰作りや目隠しとしての重宝なのだろう。夏場青々とした樹形を見れば涼しさを感ずるかもしれない。

ハチジョウイタドリ(タデ科)

2006年08月23日 | 自然観察日記
 イタドリの仲間で伊豆諸島に分布する変種クラスのもの。海岸の崖や火山荒原などで見られ、いわゆる裸地に最初に進出する先駆植物として有名。普通のイタドリに比べ葉が厚ぼったく光沢がある。伊豆大島には普通のイタドリの生育を確認することが出来なかったからあるのかないのか不明である。
 ところで、この仲間は園芸的・観照的な価値は全くないが、分布は面白い。越後にはイタドリの変種でケイタドリというのがある。葉の裏に微毛をもつ種で平地に普通にある。太平洋側の平地は全てイタドリで毛のないタイプである。ケイタドリはない。従って、毛のあるタイプとないタイプが太平洋側と日本海側に住み分けしていると考えるとすっきりとしたイメージになるのだが、越後を含めて近県の高山にはイタドリが生育していてケイタドリは無い。ところが、太平洋側は平地から高山までイタドリが連続的に生育するのといわれている。一方、越後では高山にはイタドリ、平地にはケイタドリという図式になるのだ。これをどう解釈したらいいのかいまだに妙案は浮かばない。
 話は変わるが、もう一種オオイタドリという種があって、越後にはごく当たり前に存在する。この茎がイタドリ笛を作るのにいい素材で、子供たちとネイチャークラフトをするときによく使用する。
 先日、緑の少年団の交流イベントがあり、その時の講師役で招集されたから、このイタドリ笛を一緒に作り合奏でもしようかと考え、事前に近くの山に行って調達した(イベント会場にもあるだろうが、不確かであるから前もって準備をした)。草薮から数本のイタドリを採取してきたところ、居合わせた方(地元の方ではないらしい)から注意を受けた。「ここは私有地だから採ってはダメだ」。法律的に反論する余地はないのだが、一瞬眼が点になった。子供と一緒に野遊びをする目的で、道路わきの藪の中にあるオオイタドリを数本採取してきた「だけ」なのにという思いと指摘されたこととのギャップがたまらない。
 登山道などで歩きやすいようにと道を広げるために刈り払いが行われることがよくあるが、そのときに貴重な植物が問答無用に仮捨てられている方がよほど心の痛いことではないのか・・・。
 自然は誰のものか。私的所有と公的なもの。一つ一つの価値に大きな違いがあるということ。それを見極める確かな知識を持つ必要性。大きな矛盾と問題点を突きつけられた感じで悶々とした心地である。

カポック(ウコギ科)

2006年08月22日 | 自然観察日記
 観葉植物でおなじみのカポックである。伊豆大島で野生状態の株が花と実をつけていたのでカメラに収めた。始めてみる花と実で観葉植物の鉢物として見慣れたものであるのだが、大変新鮮な気持ちになった。植物は花と実と葉がないと一まとまりにはならないものだとつくづく思った次第である。
 実は黄色から赤く色づきびっしりとかたまってついていて、およそ薄暗い室内に置かれるカポックの鉢物からは想像できない自己主張があり強烈な印象を与えてくれた。花は確かにウコギと思うのだが、実の付き方にいたっては本土のウコギの仲間とはずいぶんと違った感じである。新たに知った事実でる。ほんとうに植物の世界はおくが深い。

ランタナ(クマツヅラ科)

2006年08月22日 | 自然観察日記
 伊豆大島で見た植物で、園芸種が野生状態になっている例。もともとは中南米あたりが原産なのだろうか、越後では温室植物あるいは暖かい時期に鉢物として見るものである。庭先にも植栽されてはいるが、むしろ道端の野草に近い感じがした。モンキアゲハが盛んに飛来し吸蜜していた。
 色鮮やかな花でその彩りも変化するというので「七変化」という名もあるそうだ。クマツヅラ科の植物は日本にもたくさんあって、先日のクサギやムラサキシキブなどもその一群である。帰化植物のヤナギハナガサも先日登場してもらった。

テイカカズラ(キョウチクトウ科)

2006年08月21日 | 自然観察日記
 伊豆大島でのテイカカズラ。百人一首の藤原定家が名前の由来であることは見当が付くのだが、どういう謂れかまだ調べていない。太平洋側ではごく当たり前のつる性の常緑樹。越後にも分布しているがここ長岡近辺では見ないから、私にとっては大変興味をそそられる種である。なかなか魅力的な花である。
 この種も花の時期が6月頃なのだが、たまたま見つけたものは今(8月に)咲いていた。もっとも、もっと状態のいい写真を撮ろうと花を探したが見つからないから、花の最盛期は終わったようだ。それにしてもテッポウユリと同じく大島では開花期が長くなる傾向があるのだろう。
 テイカカズラは気根を出して大木などに張り付いてよじ登る性質がある。しかし、栄養を張り付いた樹から取るというようなことはしない。ただ、上によじ登るためにしがみついているという感じである。螺旋をかけて樹を締め付けるようなこともしないからそれなりに平和主義者ということになるのだろう。

テッポウユリ(ユリ科)

2006年08月21日 | 自然観察日記
 白く大きい横向きのユリはテッポウユリ。伊豆大島にはほぼ野生状態で見られる。民家の庭先にも結構見られるから自生したいたものを持ち込んだものと思っているのだが、もともとの自生地には伊豆諸島は含まれていない。分布域は薩摩や琉球列島となっている。
 となると、伊豆大島のテッポウユリは移植されたものが増えて、更に野生状態にまで増えたことになる。もともと暖かい海岸が好きな種であるから、大島に持ち込まれたあと一気に増えたのだろう。人々の助けもあってもう全く島の住人になりきったようだ。
 ただ、文献によれば南西諸島のテッポウユリの開花期は6月頃となっているが、ここ大島では8月になっても盛りという感じである。この時間差はどう解釈したらいいのだろうか。

オオシマザクラ(バラ科)

2006年08月20日 | 自然観察日記
 伊豆大島。樹齢800年のオオシマザクラの古木で天然記念物に指定されている。あまり保護状態が良い感じではなかったが、鬱蒼とした森にかもまれて静かに生きているという風情である。もっとも花の時期ではないから訪れる人もいないせいか、静寂の空間であった。
 日本はサクラの国で多種の野生種があり、栽培種になると整理が出来ないくらいの品種が存在する。私は野生のサクラの理解の仕方として次のように整理している。基本種は4種で西日本のヤマザクラ(白)、北日本のオオヤマザクラ(桃)、伊豆諸島のオオシマザクラ(白)、各地に点在するエドヒガン(桃)。越後のカスミザクラはヤマザクラの日本海側の変種と理解している。この程度でも結構サクラを理解した気になるが、実際は奥が深い分野である。
 ソメイヨシノは江戸時代にオオシマザクラとエドヒガンを掛け合わせたもので、江戸(現東京)の染井村で作られたといわれている。
 桜餅の葉はオオシマザクラの葉である。

タマアジサイ(ユキノシタ科)

2006年08月20日 | 自然観察日記
 先日伊豆大島に行ってきた。台風10号の影響で大島は雨と低い雲(霧か)で覆われあいにくの訪問になったが、なんとか島を一周して多少とも見聞を広めた。
 丁度タマアジサイの時期で至る所に株があり、まんまるなつぼみを伴うから非常に分かりがいい。つぼみは順次開いて一斉に咲くということはないらしい。伊豆諸島はガクアジサイのほうが有名だが、今回の訪問でタマアジサイの存在も印象深い。
 北日本や西日本にはなく関東東海が分布の中心で越後では妙高の苗名の滝付近など上越地方の山地では見かけるが、中越・下越では記憶が無い。

クサギ(クマツヅラ科)

2006年08月19日 | 自然観察日記
 匂いの強い植物をもう一種、クサギ。この時期野山で花盛りである。花それ自身をアップで見ればそれなりの好感をもてるし、秋の実の頃の景色もなかなか味があって捨てがたい。ただ、近づいたときの匂いがいただけない。ヘクソカズラよりましかもしれないとは思うけれど、この匂いも好きになれない。
 花の頃は匂いばかりに気をとられてしまうが、秋紅葉の頃がもっとも好きな時期である。匂いも気にならなくなるし、黒い実が赤い苞に包まれ昔見覚えのある羽付の羽を思い起こさせるころ、再び紹介することにしたい。
 外来種でボタンクサギという種が結構野生化している。園芸用に中国から入ったものといわれるが、やはり匂いは強い。

ヤイトバナ(アカネ科)

2006年08月19日 | 自然観察日記
 別名サオトメバナなどとも言われるが、ヘクソカズラの名のほうが圧倒的に通りがいい。酷い名前だが、確かにいやな匂いが花の可愛らしさを消し去って厄介者扱いされている。性質はつる性で繁殖力が強くいたるところの藪を構成し、草取りの際に引きちぎればその匂いで苛立ちはいっそう強くなる。人を寄せ付けたくないための匂いなのだろうか。傷つけなければ気にならないし、匂いで昆虫が集まってくる様子も無い。食害を防ぐ一つの手段なのであろう。
 ヘクソカズラにはアリが良く来るという。蜜で呼び寄せるのだそうだが、これもアリを使って他の昆虫などの食害を防ぐ方法と考えられるから、全国どこにでもあるこの植物の大繁栄振りの正体がこの辺にあるのだろう。

 

ハマカンゾウ(ユリ科)

2006年08月18日 | 自然観察日記
 関東以南の海岸に生育するキスゲの一種である。一見ノカンゾウと区別できない。実はこの写真は伊豆大島で撮影したもので、ここにはハマカンゾウしか自生していないという。ヤブカンゾウは八重で区別は容易なのだが、一重のノカンゾウとハマカンゾウは葉が冬枯死するかどうか、生育地が海岸かどうかで決まるそうだ。
 細かいことにことに拘る場合でなければ同じに扱っても差し支えないだろう。生薬でいう甘草(カンゾウ)とは別物で、私はかなり長い間誤認していた。山菜としては利用価値は高いが、薬効はなさそうだ。

センニンソウ(キンポウゲ科)

2006年08月18日 | 自然観察日記
 ボタンヅルに良く似るが葉の形が違う。ボタンヅルは草質の3出複葉、センニンソウはやや硬い葉で小葉には切れ込みがない。白い花が大きな塊になって咲いているから、この時期山野を歩くととても目に付く花だ。
 属名にClematisとあるから、初夏庭を彩る豪華なクレマチスの一群で原種の一つと考えればいい。
 口にすることは無いと思うが、有毒植物としても名高いものである。しかし、蝶などが吸蜜にくるから蜜には毒成分が含まれないのだろう。

ラセイタソウ(イラクサ科)

2006年08月17日 | 自然観察日記
 ハマユウという海岸植物を取り上げたからもう一種、ラセイタソウ。こちらはいたって地味でハマユウと比較するには次元が違う。
 しかし、イラクサ科の中ではとりわけ印象深い種で、海岸の岩場にへばりついて生育するから岩との対比でいい景色になる。よくよく見れば厚ぼったい葉もずんぐりした花穂も愛嬌がある。
 何処にでもありそうな種だが、こちらは九州・四国以南には分布していないらしい。夏の温度より冬の温度が生育条件に関係が深いのだろうか。

ハマユウ(ヒガンバナ科)

2006年08月17日 | 自然観察日記
 西日本の海岸端にはごく普通に野生している。見栄えのする植物だから公園や庭によく植栽されていて馴染みの深い植物だ。しかし、南方種だから北国にはない。越後でも野生はないが植栽もあまり見かけない。
 ところが、かって知人から株分けしていただいたものが我が家にある。これがほぼ毎年開花する。冬は寒さでほとんどの葉が枯死するが、根元の葉の重なりが大きいのだろう、中の芽を保護するので暖かくなると再び葉を展開しそこそこの株に成長する。その年の寒暖に影響され衰える年もあれば元気な年もある。長岡はこの種が生きていけるぎりぎりの場所のようだ。

オトギリソウ(オトギリソウ科)

2006年08月16日 | 自然観察日記
 「弟切草」の意味で、この草から出来る秘薬の秘密を弟が漏らしたため兄に切り殺されたという伝説からきているという。葉には小さな黒点が散在していて、これがそのときの血の飛び散った跡という。少々可愛そうな名前がつけられてしまった。確かに薬草として利用されている。
 結構変異が多く種を特定するのに見極めが必要だ。葉には黒点ばかりでなく白い点を持つものもあってこれで区別すると大体上手くいく。コケオトギリのような小さいものは除いて、越後の里山には黒点ばかりのオトギリソウと白い点(明点という)ばかりのサワオトギリ、高山には黒点のイワオトギリが生育する。