森の案内人 田所清

自然観察「独り言」

アカメガシワ( トウダイグサ科)

2006年08月15日 | 自然観察日記
 夏の花の時期は地味で目立たないが、春先赤い新芽を伸ばすのでその存在は知っている人は多いだろう。しかし、落葉の高木ということもあるから手にとって近くで眺めるということは少ないかもしれない。だから、花の時期にこの植物を紹介してもなかなか印象を植え込むことが難しい種だ。
 森の中に生えているというより崩壊地付近に好く見られるから、やや不安定な場所に生活の拠点を持っている種のようだ。
 苞葉が赤く発色する点からポインセチアと同属と思いつかれる方もいるかもしれない。いずれもトウダイグサ科の種で雰囲気がよく似ている。

ムカゴトラノオ(タデ科)

2006年08月14日 | 自然観察日記
 高山植物の定番。ガスで曇った広い草付きに白い花穂が蝋燭の火のように広がる様は幽玄の世界に導かれるようでいい。夏山登山をされる方なら一度や二度経験があるのではないだろうか。
 ムカゴは腋などに出来る不定芽のこと。本体から外れて地に落ちれば、その中の栄養で発芽し新個体になる。植物があみ出した生き残り戦術で、無性生殖の一つである。生殖の効率で言えば圧倒的に無性的に増えるほうが優れているのだが、遺伝的特性が全く同じで環境の変化によっては絶滅しかねない。その一点で効率が悪くても、遺伝子を混ぜる有性生殖をするのが命のあるものの宿命である。動物は無性生殖を放棄したが、植物は無性生殖と有性生殖を組み合わせて命を繋いでいるという図式になるのだろう。

チシマヒョウタンボク(スイカズラ科)

2006年08月13日 | 自然観察日記
 先日の鳳凰山登山の祭に撮影したものである。スイカズラ科のLonicera属のものとは承知していたのだが、その後の調べでチシマヒョウタンボクと判明。北海道にある高山種で、本州には唯一南アルプスの一部に稀に生育するものだそうだ。隔離分布の典型種である。花は頂生で2対付くから、秋に2つドッキングした赤い実が2個できる(左脇に4個のつぼみが見えるが、これ2つが結合した実を作るため、全体で2個の実に見えるのである)。
 気づかないうちに貴重な出会いをしていたことになる。そのときは見かけない種だなぁというくらいの対応で何気なく記録写真を撮ったに過ぎないが、これほどのものであるならもう少しじっくりと語り合っておけばよかったと後悔している。

カラマツ(マツ科)

2006年08月12日 | 自然観察日記
 山地に紙パルプ用に大量に植林されているいることが多いから馴染みのあるものである。秋に落葉するマツ科の中にあっては珍しい性質なのだが、特に気にならないごく普通の身近な樹木である。
 僕が野生種を見るときは決まって高山で、絵のような強い風に耐えて樹形が変形したものがほとんどである。時たま、亜高山上部に風当たりの弱い場所にすらっとした樹に出くわすが稀だ。自然のカラマツを尊敬する某氏は「テンカラ」と呼んで強い関心を示すが、本来のカラマツの隅かは決して好条件の場所ではないようだ。競争に弱いため棲みにくい高山岩場に追いやられてしまったのだろう。
 人為的作用で好条件の場所に植林されるから、彼らにとっては大喜びで成長し大規模な植林帯が形成されるのであろう。材は軟質だから建材にはならず紙パルプのチップの原料とされる。
 この個体は鳳凰山の観音岳付近にあったものである。
 

ウスタケ(ヒダナシタケ目 ラッパタケ科)

2006年08月12日 | 自然観察日記
 そろそろキノコのシーズンに近づいてきたので、時々はキノコも取り上げよう。もっとも、年中発生するものだからキノコシーズンを秋に限定する必要もないが、人の気がそちらに向きやすいという程度の感覚である。
 先月の鳳凰山の山腹、オオシラビソ林に奇麗な個体があって、絵にするには丁度いいものであった。モミ属との関係が強いキノコとされるウスタケというが、やがてすり鉢状に内側がへこみ名前の通りの雰囲気になる。暗い森の中ではひときわ目立った存在であった。
 このキノコ、毒なのか食用なのか判然としないキノコの一つである図鑑では「食用」と紹介されているが、他のものでは「毒」となっている。私自身まだ生体実験を行ったことが無いが、致命的な「毒」はないと思っている。そういえば、若い頃のキノコを理解するために結構生体実験を行ったものだ。私は何ともないのだが、妻が体調を崩したこともあるから、人によって食・毒が異なるのであろう。最近はそんな無茶なことはしていないからご心配なく。

オオハンゴンソウ(キク科)

2006年08月11日 | 自然観察日記
 大型の帰化植物で道路沿いなどの草地によく見かける。もともとは切花にでも利用する目的の移入植物なのだろうが、逃げ出して野生状態になっている。それも、かなり人里はなれた場所にも見られるようになっている気がする。
 これは、小国の森林公園近くの農道で見かけたもの。立派に育ってまるでここの主のようである。場所によっては自然の生態を脅かす厄介者として駆除に乗り出しているところもあるという。植物に限らず外来種に対する考えをしっかりしないと、大切な日本の本来の自然が失われてしまう。

ガマ(ガマ科)

2006年08月10日 | 自然観察日記
 「蒲」と書く。この文字を使った地名が結構沢山ある。このガマが生える場所が湿地であることから、以前湿地帯であった所を干拓したりして人の住めるような場所に作り変え来た歴史がうかがえる。
 もう花も終わりの頃の写真で、残っているのは雌花の部分。この上に雄花があったのだがすでに落ちている。秋が進むとこの雌花の部分が綿毛状態に膨れてこぼれる。もちろん種子を散布するための技だが、因幡の白兎が裸にされてガマの穂に包まれるという話があるが、この時期の真綿みたいな状態のときのことであろう。

ウツボグサ(シソ科)

2006年08月10日 | 自然観察日記
 夏場、比較的日当たりのいい山道などで見かけるシソ科の植物。花はシソ科特有の烏帽子状でそれが沢山束になって咲く。ウツボは魚のウツボではない。弓矢を入れるものに靭(うつぼ)というのがあるそうだが、それになぞらえたものという。残念ながら私は見たことはまい。
 結構群生もするから絵になる花である。暑い時期の青い花は一服の清涼感をもたらせてくれる。
 ちなみに、シソ科の見分け方の一つに茎を触ってみることがいい。茎は丸くなく四角い。角ばった茎を持つものは他にほとんどないからいい区別点である。

ヒメヒオウギスイセン(アヤメ科)

2006年08月09日 | 自然観察日記
 結構野生状態になっているがこれも外来種である。かなり古く移入したものであるとされる。モントブレチアともいう。この時期、盆花として良く使われる。
 子供頃、花を引き抜いてはその根元をすすると蜜の甘い味がするから、それをすすって遊んでいた。
 先日の小国森林公園で道を間違えて戻る途中、農家の軒先や畑の片隅にモントブレチアが無造作に群れ咲いていた。手入れしてあるわけでないから、本当の野生種のような感じである。

コオニユリ(ユリ科)

2006年08月09日 | 自然観察日記
 オレンジのユリが何種かあるが、里山に野生しているものはこのコオニユリである。大型のオニユリはかって我家にもあったのだがいつしか消えてしまった。これは野生には無くて、古い民家の庭に時々見かける程度である。したがって野生種でオレンジ色はこのコオニユリ・・・といいたいのだが。
 ところが、高山植物の代表種となっているクルマユリが挙げられるが、これが柏崎市の米山近辺の低山に結構あるからややこしい話になる。私も最初に出会ったときはまごついた。誰かが移植したものだろうかといぶかったりもしたが、それが実際の分布なのである。「高山」に捕らわれてはいけないことを教えられた。
 海岸岩礁にスカシユリがあるが、これは上向きに1つの大きな花をつけるから混同することはないだろう。ちなみに、オニユリとコオニユリの違いは腋(えき)にむかごが付くかつかないかで判断する。コオニユリはむかごは付かない。

ナワシロイチゴ(バラ科)の実

2006年08月08日 | 自然観察日記
 先日の小国森林公園でのやぶこぎの際の出来事。大汗をかいて山道から下の農道にたどり着いたのがお昼過ぎで、このときは水も食料も持参していなかった。当然、のどが渇きお腹も減っていて、脇を流れる川の水が恨めしい。
 そんな思いで農道を歩いていると目に付いたのがこのナワシロイチゴの実。天の恵みとばかりにつまんでいた。たいしてお腹の足しにものどの渇きにも役にはたたないけれど、とても美味しいと感じた。実際はモミジイチゴに比べれば数段格下の代物なのだが、受け入れる体の状態で感じ方が大変違うものだ。
 そういえば、登山の最中に汗をかいて湧き出る清水をいただくときの美味しさは本当に格別で、子供たちに「水の旨さが判る」ようになれと時々諭している。水と空気が美味しいといえる生活や環境がいつまでもあるといいと思っている。
 

ホタルブクロ(キキョウ科)

2006年08月08日 | 自然観察日記
 これはヤマホタルブクロ。がくの部分が丸く盛り上がっていて、反転する突起状物はない。色の違いでヤマホタルブクロとホタルブクロを区別できない。それほど大きな差でもないから、ホタルブクロでいいのではないか。いずれにせよ味のある命名である。
 子供の頃、実際に蛍をこの中に入れて遊んだ記憶が僅かに残っているが、どういういきさつでそうなったか思い出せない。ホタルブクロは我が家に生えているが、いつしか蛍の姿が見えなくなった。脇の農道沿いに流れる小川の水が夏に枯れる環境になってしまったからで、古き良き自然がまた一つ無くなってしまった。

サルナシ(マタタビ科)の実

2006年08月07日 | 自然観察日記
 先日、小国森林公園にイベントの準備ということで下見をした。新潟県中越地震や大雨の後遺症か破損した施設などが放置されていたり整備中の表示がしてあって利用できる部分はかなり限られている。そんな中、自然観察に適したルートとか草遊びをするにしてもお目当ての植物がどこにあるかを抑えないと責任が果たせない。
 下見中、細い山道があって特に規制されていないから利用できるものと思い入っていった。ところが数年まったく利用されていないルートらしく踏み跡はしっかりしているが夏草が生い茂っていて、ところどころ歩行が困難になっている。引き返せばいいものを、案内板の通りなら先に古い施設があるはずとそのまま前進。やはりいけなかった。茂る草で道を誤ったのかイメージしていた道から外れてしまった。
 引き返すのも癪だから、遥か下の農道に向かって適当な沢を利用し道なき道を強行下山。時々こんな無茶をする。遭難しないのが不思議だが、それなりの経験もあるから怖くはない。しかし疲れた。
 そんな下山の途中にサルナシの実を発見。秋遅い頃なら小躍りするのだろうけれどこの時期は食べたくとも食べれない。甘く美味しい実で日本産のキウィーフルーツといったところ。地元では「こくわ」ともいい山の人々には重宝がられる幸である。この実が熟す頃再びここを訪れればいいのだろうが、もう二度と来たくない藪である。誰の餌になるのだろうか。サルはこのあたりに生息しているという話を聞いたことがない。

ノギラン(ユリ科)

2006年08月06日 | 自然観察日記
 ランといってもこれはユリ科の花。そういえばユリ科の花の中にランと名が付くものが結構ある。ランの花に似ていると感じた人が多かったのだろうか。花よりも葉の方が似ている感じがするのかもしれない。
 ノギランは比較的湿り気のある山道などで見かけるロゼット葉の植物である。地味な花だが、夏の花の少ない地際にあって、登山などしているとうつむいて歩くから結構気がつく。越後の里山で日当たりのいいところより林の中の山道に多く出てくる。
 似たものにネバリノギランというのがあって茎などを触るとネバネバとした感じになる。腺毛があるためで、ノギランはないから粘ることはない。

ヤナギハナガサ(クマツズラ科)

2006年08月05日 | 自然観察日記
 これはヤナギハナガサという南米原産の帰化植物である。近年、道路脇など至る所に見られ、花が奇麗なため意図的に残され庭の花にもなっている。性質は強く繁殖力もあるからその広がり方は非常に早い。
 この種は日本の野生種でないし、園芸種として入ったわけでは無さそうなので植物図鑑に掲載されていないから、ひところよく質問されたものだ。ようやく認知されて日本の自然に溶け込もうとしているようにも感じられる。日本人好みの花なのであろう。