原題:『永遠の0』
監督:山崎貴
脚本:山崎貴/林民夫
出演:岡田准一/三浦春馬/井上真央/吹石一恵/風吹ジュン/夏八木勲/橋爪功
2013年/日本
「三丁目の夕日」や「永遠」などのノスタルジーで隠される「悪夢」
涙を誘う物語として観るならば、それなりに良く出来ているとは思うが、例えば、特攻決行の当日において、宮部久蔵が大石賢一郎に、大石が操縦することになっていた二一型の零戦と自分が操縦することになっていた五一型の零戦を交換して欲しいと頼む。五一型の方が最新式であるのだが、乗り慣れているということで、大石は応じるのであるが、飛び立って間もなく、大石が操縦していた五一型の零戦はエンジントラブルを起こして近辺の島に不時着するが、宮部の操縦していた二一型の零戦はアメリカ海軍の航空母艦に突っ込んで宮部は帰らぬ人となる。どうやら宮部は自分が操縦することになっていた五一型の零戦の調子が悪いことに気づいていたようで、だから大石に妻の松乃を託す手紙を書き残していったとは思うが、必ずしもエンジントラブルの零戦が不時着するとは限らず、寧ろ相手に攻撃されやすかったり、海に突っ込んで破損したりして大石の身の危険の方が大きいはずで、宮部の判断が正しいとは思えないのである。この、自分に都合の良い「理想主義」が無謀な戦争を引き起こした原因ではなかったのか?
大石賢一郎が、佐伯健太郎や佐伯慶子が宮部に関して調べて自分自身にたどり着くまで、この話を2人にしていなかった理由がよく分からなかったが、ラストシーンにおいてアメリカの航空母艦に零戦ごと体当たりする宮部の顔の表情は微妙で、あそこで見せる「してやったり顔」のヒロイズムが戦争を美化しているとして、宮崎駿監督が何よりも嫌うものなのであろう。
なお特攻隊に関する作品ならば『月光の夏』(神山征二郎監督 1993年)を勧める。帰還特攻隊員の収容施設「振武寮」が描かれているからである。要するに特攻隊はヒロイズムとして描けるほど単純なものではないのである。