原題:『利休にたずねよ』
監督:田中光敏
脚本:小松江里子
撮影:浜田毅
出演:市川海老蔵/中谷美紀/大森南朋/成海璃子/クララ/伊武雅刀/中村嘉葎雄
2013年/日本
「ポップスター」としての千利休
例えば、水を張った器に本物の月を映して「作画」したり、竹製の茶杓に敢えて竹節を入れて作るように、普段なら無視されるようなものを積極的に取り入れる千利休の発想はとりわけモダンアートに通じるものがある。つまり当時の千利休は現代でいう「ポップスター」であり、その人気に豊臣秀吉が少しずつ恐怖を抱きだした理由は分からなくはない。
千利休が美に目覚めた原点は、高麗からさらわれてきた女性との出会いである。言葉が通じないことから千利休は彼女が食する食事を工夫することから女性の心を開こうと試み、その利休の思いは女性に通じて、やがて打ち解けるようになる。ある晩、利休は高麗に帰郷したいと願う女性を勝手に牢獄から連れ出してしまうのであるが、すぐにバレて利休と女性は海岸の漁師が使っていた廃屋に潜む。やがて周囲を追っ手たちに囲まれて、逃げ場を失った2人は毒を飲んで心中することにする。女性が先に毒を飲むのであるが、利休はついに毒を飲むことができなかった。しかし女性が利休に向かって最後に放った言葉は「あなたは生きて」だったのである。
女性の言葉に応じて生き延びたのではなく、臆病だったがために生き延びられた利休の心情が複雑であることを想像することは難くない。その後の利休が茶道で試みようとしたことは、高麗の女性が心身ともに備えていた美の再現ではなかったのではなかろうか。それが女性に対するせめてもの罪滅ぼしになるからである。だから朝鮮出兵を目論む豊臣秀吉と対決することは避けられなかったのであるが、利休がそのような経験をしていることなど秀吉どころか妻の宗恩さえ知る由もない。