MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『梟の城』

2014-10-13 00:45:08 | goo映画レビュー

原題:『梟の城 owl's castle
監督:篠田正浩
脚本:篠田正浩/成瀬活雄
撮影:鈴本達夫
出演:中井貴一/鶴田真由/葉月里緒菜/上川隆也/永澤俊矢/火野正平/中村敦夫
1999年/日本

 敵の存在による自分の存在証明について

 クライマックス、主人公の葛籠重蔵が眠っている豊臣秀吉のそばまで忍び込み、仲間の敵を討とうとする直前、秀吉から次のような驚くべき話を聞かされる。「わしが一言唐攻めをほのめかしただけで、戦を望む者どもの心が燃え上がり、凄まじい炎となり、太閤といえどもこし消えぬ勢いで暴れまくったのじゃ。この老いぼれ一人の指図で50万もの兵を動かせると本当に思うておるのか。わしはただ世が望み、世が動くがまま、秀吉という男の役割を生きておるにすぎぬ。わしが世に逆らえば、誰かが代わりに祭り上げられるだけのこと。それが権力というものの真なのじゃ。わしという者が本当は何者なのか、わしには分からぬ。おぬしに尋ねよう。わしは誰なのじゃ?」
 この時、重蔵は悟るのである。敵がいるからこそ自分の存在は証明されていることを。そこで重蔵は秀吉を殺すことを諦め、一発顔を殴って退散するのであるが、どの襖を開けても同じ部屋のようにしか見えない重蔵は敵の武士の出現によってようやく自分の立ち位置が分かるのである。そして逆に、重蔵を殺そうとしていた風間五平は、重蔵を見失ったことで自分のアイデンティティを失い、石川五右衛門として処刑されてしまうのである。さらに重蔵は、元々自分の敵であり、徳川家康の腹心の服部半蔵のマインド・コントロールの影響で時々自分に殺意を催す小萩を敢えて妻にすることで身を守り、徹底した敵の「抱き込み」による保身という矛盾を生きることになるのである。
 本作には、例えば『るろうに剣心』(大友啓史監督)のようなスピーディーな演出は全く見受けられないが、テーマによって演出が変化することはごく自然なことであろう。


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