「うまい天丼を食わせる店が知らぬ間に無くなっていた。新規開拓は難儀だよ」
友のぼやきに苦笑してついつい本音を言いたくなった。
「ほんまに贅沢な悩みだな。俺の住む街には天ぷら屋自体がない。天ぷらを食いに県庁所在地まで出かける者だっているんだぞ(笑)」
生信仰(造りが一番美味しいと思い込んでいること)の強い土地で育ったため、いい年になるまで天ぷらを軽く見ていた。銀座某店の天ぷらを初めて口にした時の驚きは未だに忘れることができない。
生よりも美味しくなくっちゃ天ぷらにする意味がないと言い切る職人がいるが、まさに生以上の旨みと甘みに私は感動を覚えたのである。胡麻油の使い方は流石に上手で「くどさ」を全く感じさせず幸せな気分になった。
活きの悪くなった素材を揚げる料理が天ぷらと思っているのは、真の田舎者と四流料理人だけである(苦笑)
