家庭料理で一番よく使う甘味料は砂糖(上白糖)であろう。幼い頃は甘辛い味付けが好きだったが、成長するにつれて甘さ控えめの料理を体が求めるようになった。上質の野菜や肉を多量の砂糖で煮込むことが「素材の味を殺す」のと等しいと経験的に悟ったからだ。
昭和天皇の料理番だった秋山徳蔵さん(故人)は「料理のコツ(有紀書房 昭和三十四年)」の中でこう述べている。
…せっかくの材料の味を、七割か八割にしか味わっていないことが多いのは、たいへん惜しいことだ。調味料とその使いかたをすこしばかり研究することは、うまい料理をつくる、そして食生活をグッと楽しくする近道だといっていい。
砂糖のつかいかた
料理にはなるべく砂糖を使わないこと-これを原則と心得ていなければならない。材料のもつ自然の甘みを生かすのが料理の大道である。甘味をもっていないものには、他の材料といっしょに調理することによって自然の甘みをつけるのである。野菜はたいてい甘味をもっており、大根の類いは特に多い。だから、肉類や魚類も、野菜といっしょに煮込むことによって奥床しい甘みをもつようになる。ましてや、野菜そのものを煮るのに、砂糖を使うなどは邪道中の邪道である。
砂糖を割合多く使うものは、乾物類である。かんぴょう、しいたけ、高野どうふなど、特に豆類を煮るときにはどうしても多くの砂糖が必要である。
