1人で小料理屋を切り盛りするオヤジから私は多くのことを学んだ。旬の食材や原料原価そして下準備の重要性など。彼の仕事には無駄がほとんどなかった。客の注文に応えて切る、煮る、焼く、揚げるといった作業をテキパキとこなしていた。その上、客と適当に会話しなければならないのだから大変である。くだらない愚痴ばかりこぼして手が動かないのは三流以下の職人である(笑)
私は彼と原価計算についてはよく話をしたが、味付けに関してはほとんど質問しなかった。それは店主が客の好みに合わせて臨機応変に味を調整していたからだ。味覚の優れた客には薄味に仕上げているのはカウンターからもよくわかった。1度だけ彼が味付けについてぽろっとこぼしたことがある。
「こんだけいい魚を使っているのに、もっと醤油を入れて炊いてくれという客がいるんだよ。要望通りに濃い味付けにするが、悲しい作業だねー」
気の毒に思った私はこう言って慰めた。
「味覚はほぼ天性のものですからね。それからガキの頃に餌のような食事を強いられた人は味覚音痴になりやすい。先入観なしで幼い頃から多くの食材を口にすることで味覚は鍛えられる。偏食家が価格で味を判断しがちなのは肝心の舌が機能していないからでしょうな(笑)」
私は彼と原価計算についてはよく話をしたが、味付けに関してはほとんど質問しなかった。それは店主が客の好みに合わせて臨機応変に味を調整していたからだ。味覚の優れた客には薄味に仕上げているのはカウンターからもよくわかった。1度だけ彼が味付けについてぽろっとこぼしたことがある。
「こんだけいい魚を使っているのに、もっと醤油を入れて炊いてくれという客がいるんだよ。要望通りに濃い味付けにするが、悲しい作業だねー」
気の毒に思った私はこう言って慰めた。
「味覚はほぼ天性のものですからね。それからガキの頃に餌のような食事を強いられた人は味覚音痴になりやすい。先入観なしで幼い頃から多くの食材を口にすることで味覚は鍛えられる。偏食家が価格で味を判断しがちなのは肝心の舌が機能していないからでしょうな(笑)」