青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。写真はおおめ、文章はこいめ、コメントはすくなめ。

オンドル小屋の夜は更けて ~大深温泉その3~

2005年08月17日 22時45分35秒 | 日常
(写真:通年5℃の大深の清水 実に美味い)

荷物を運び込んで一服、付く間もなく食事の支度である。当然、食事は自分達で作らなくてはならない。気分としてはバンガローに泊まっているようなものだ。
田沢湖の町で、「秋田なんでキリタンポ鍋でも作ろうか」と食材を用意して、鍋まで買って準備は万端である。火だけはないのでオッサンに頼むと、普通のカセットコンロではなくプロパンガスのボンベごと持って来た(笑)。スケールでかいなあ。いくら使っても借り賃は300円である。伝票のような紙にオッサンが付け込んで、後で精算のシステムらしい。

野菜を洗う水の冷たい事。手が切れそうだ。オッサン曰く「夏でも冬でも通年5℃」の地下水。飲むと全くもってこの夏の時期甘露と言うしかない程キリッと冷えて実に美味いのである。
この清水をは、飲み水だけでなくモノを冷やす冷蔵庫代わりでもある。まあ鍋の準備なんて買って来た材料を切って鍋で煮るだけでそんなに面倒な事はない。ただ、家で料理するのと違って何かと細かい事で足りなかったり買ってなかったりするのだが、そこは男の料理なので適当にあるもので間に合わす。
(写真:準備をする山小屋店主氏)
鍋をコンロの上に載せ、冷やしたエビスで乾杯。何だか楽しくなってきた(笑)。鍋をかついで歩いてやって来て、自分でメシを作って食べて、また次の旅…本来、旅と言うのはこう言うものであるのかもしれない。まあ、私は足で歩く事はしないのだけれどもね。

鍋が湯気を上げ始めた。そろそろいいかな?という事でキリタンポ鍋の出来上がり。鍋なんか失敗のしようがないのであるが、美味しく出来ました。二人でオンドルの床にしゃがんで鍋を食いながら酒を飲む。男らしい濃い味付けと、裸電球の下の良い雰囲気に酒も進む。
酒が尽きて鍋がカラになると、もうする事はなくて温泉へ。火山のエキスが溶けたような酸味の利いた白いお湯にどっぷりと浸かり、上がった所で炊事場の清水を飲むと、熱くなった体に染みるようだ。

先客の夫婦は5時にメシを作り、8時には寝てしまった。早杉(笑)。ジジイかよ。確かに何もやる事がないのは分かるけど…
明かりが付けられないので、隣のオンドル小屋に移って持って来たラジオのスイッチを入れると、何故かこんな秋田の山の中で毎日放送のタイガースナイターがクリアに聞こえる(笑)。ムシロに座ると熱いので、スノコを並べてその上に寝っ転がった。

相変わらず屋根を叩く雨音は激しい。いつ止むとも付かぬ雨と、闇の中に浮かぶ噴煙を眺める。久保田撃沈、嘆く一枝修平。
大深の夜は更けてゆく。
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死神博士とハンターチャンス ~大深温泉その2~

2005年08月17日 21時51分44秒 | 日常
(写真:大深温泉の風景)

アスピーテラインから砂利道を降りて、大深温泉の駐車場に到着。霧と森の中に包まれて、古びてはいるが普通に過ごしやすそうな宿に見えた。
車から降りて中に入ろうとすると、カギがかかってて中には誰もいない。あれれと思ったら、足元に立て札が出ていて「オンドル・浴室にいます」とある。
砂利道を歩いて宿の主人を呼びに行くと、風呂の掃除をしていたらしく長靴履きであった。これが昨日電話に出たオヤジか…見ると、天本英世といかりや長介を足して2で割って、柳生宏の衣を付けて揚げたような顔立ちである。

「スンマセン~、昨日電話して来たんですけど」
「あ、なんだ?けんがぐか?」
天本長介(仮名)は振り返るなりこう言うのである。んなわけねーだろ(笑)。こんな山ん中に見学に来る香具師なんかいるか(笑)。
「昨日電話したんですよ!今日泊まりたいって!」
「ん?とまり?とまりてだ?…んだばこっぢいご」とスタスタと小屋へ戻る。先ほど「過ごしやすそう」に見えたのは、管理人のこのオッサンが泊まる管理棟らしい。

「やどちょさかいて」
そう言ってオッサンは紙を突き出す。余計な事を一切言わないオッサンである。口下手なのかしら?東北人っぽいなあ。朴訥なのだろう。悪い人ではなさそうだが、電話ではぶっきらぼうに聞こえてしまうのだろう。宿帳を書き終わった我々を案内するオッサン。
「ここがお湯だ。んで、ここが炊事場だ。冷蔵庫ねから地下水で冷やすだ。で、ここがオンドルだ。場所によっぢゃあづいトコあるからきつけねばなんねえべ」
と一通り歩きながら説明する。

泊まる小屋は噴煙の上がる地獄地帯の最奥にあった。上こそプレハブで組んであるが、中は木材がムキ出しで、なおかつ地面には粗末なムシロを引いただけのだけの簡素なものである。ムシロをめくると下はそのまま地面であり、尻を乗せるとボコボコとした荒い地面の感触が伝わって来る。火山地帯の地熱で、座ると尻の下がジワリと熱い。この上に寝転がって、じっくりと体を暖める療養用の小屋がオンドル小屋なのである。
ちなみに中はこんな感じ。体育館の用具小屋のようでもあり、被災者の避難所のようでもあり…無数の虫の死骸が転がっている。灯りは裸電球が天井から釣り下がっているだけで、ともあれ「こんな場所に泊まるのか」と言う事に妙な感慨を覚えるのであるが(笑)。

説明が終わり、荷物を運び込む我々。小屋の前までは車が入れないので、運ぶ道具は荷物用に置かれているネコ車である。先客は青森から来たと言う40代の夫婦一組。他の客は昨日あらかた帰ってしまったらしい。もう今日は誰も来ないと思われるので、広く使わせてもらおう。
どんどん荷物を運び込んで、自分達の根城を作って行く。ダービーの席取りの並びで、自分らの場所を作るようなそんな感じだ。

ネコ車2往復で、今晩の根城が完成した。
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八幡平の霧煙る一夜 ~大深温泉その1~

2005年08月17日 17時24分29秒 | 日常
(写真:大深温泉受付棟)

今日の午前6時に無事帰宅いたしました。
てか、青森の碇ヶ関出たのが昨日の朝9時なんだけどね…。
宮城県沖地震とかあったもんだから、なるべくR4と東北道沿いには寄らずに、下道で大館~北秋田~角館~横手~雄勝~鳴子~古川~仙台~相馬~いわきから常磐道で帰って来ました。走行距離2000km弱で、まあ、編集長と比べたらヒヨっ子です(笑)。

初日、二日目を鳴子のいつもの宿でダラダラした私。雨なので、する事もなく持って来たラジオで甲子園なぞ聞きながらぼーっとしていた。
すっかり懇意となった宿のダンナと事務所で雑談。色々と今後の旅の参考になる話を聞く。「人の来なそうで静かでいい温泉があって、安く泊まれるところ」と言う希望を出すと、候補地をいくつか見繕ってくれた。
自分なりの候補地であった事と、方向が良い事、そしてご主人曰く「近くにある後生掛とかふけの湯と比べて、実に素朴な感じの穴場」と言う一言が決め手となり「大深温泉」と言う所に行く事にする。秋田・八幡平の山懐に抱かれた静かな場所らしい。希望通りじゃないですか。
「大深は大部屋ですけど、一泊2,000円もしないんじゃないですか」とご主人。イイヨイイヨ-。大部屋と言うとザコ寝と言うことなんだろうが、その値段なら全く気にならんしね。ご主人サンクス。
ともあれ、決まったからには早速予約をせねばなるまい。
宿の公衆電話から電話。長~いコール。なかなか出ない…やってんのか?

「おおぶかでず」
「(あ、出た!)あの、明日泊まりたいんですが開いてますか?…」
「(…しばし無言の後)ここさきたことあっが?」
宿に電話したとは思えない話の切り出しにたじろぐ。
「いえ、初めてですが…(オドオド)」
「こ、わげひとのくるよなどころじゃね」(ここは若い人の来るような場所じゃないんだよ)
いきなり拒否かよ!
しかしキッツい東北弁だなあ…宿とは思えない応対ワロス(笑)。

ただそこまで言われてこっちも引き下がる訳にはいかないので、
「色々と話聞いて内容は知ってるんですけどね…」
と言葉を続けてみる。
「めしもでねが?」(ご飯も出ないですよ?)
「自炊だと聞いてますんで、買って持って行きます」
しばしの沈黙が流れる。
「…なんぱぐだ?」(何泊するの?)
「ハイ、一晩です」
「…わがっだ」(OK、しかたない、しゃあねえ)
どうやら了承が出たようだ。
「あしたな?」(明日来るんですね?)
「ハイ。あの、名前とか言っておいた方がいいですよね…」
…がちゃ

オイ!(笑)

何だか良く分からないが、(たぶん)予約できた(のか?)。

ちょうど同じお盆休みで秋田まで来ている大学の後輩でもある山小屋店主氏にメール。相手も特に予定がないということで、一泊誘ってみたところ快諾。三日目の朝横手の駅で待ち合わせる事になった。翌日、横手の駅で無事に落ち合う。お互い川崎と船橋の人間が横手で待ち合わせると言うのも何だか不思議な感じがする。
ニヤニヤしながらヤツが車に乗って来た。てか、こんな訳の分からんかつ何が起こるか分からないような場所にホイホイ付いてくるノリの良さが大好きだ(笑)。

田沢湖の町でバッチリ食料と自炊用道具を揃える。臨戦態勢を整えておかないと何が起こるのか分からないからな…昼飯はまずいシャケ弁を田沢湖を見ながら食べた。青い湖がキレイだ。
乳頭の蟹場温泉に立ち寄ってから、R341を北上。八幡平アスピーテラインの入口から登りはさらにキツくなる。今回の旅は天気が悪い。本当なら景色の素晴らしいアスピーテラインも、とっぷりと霧に飲まれている。
標高が1,100mを示したあたりで、看板が見えてきた。

鬼が出るか蛇が出るか、大深温泉の一夜である。
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