(引き上げ線に咲く@勝沼甚六桜)
勝沼ぶどう郷駅には、駅がスイッチバックだった時代に、笹子峠への登りに向かう列車が助走を付けるための引き上げ線の跡地が残されています。駅前の旧ホームを中心として整備された甚六桜公園の他にも、こちらにも桜の木が植えられていて、春には素晴らしい景色を見せてくれます。駅から少し離れた場所にあるためここを訪れる人は少ないのですが、私はこの引き上げ線の桜が特に好き。築堤を覆うように桜が植えられていて、すっかり自然に還ったその廃線然とした佇まいがいい。
勝沼ぶどう郷(当時は勝沼)のスイッチバックが廃止されたのは昭和43年(1968年)の事で、桜が植えられたのは廃止後の事だそうですから、約50年を超える時が流れたことになります。ここが鉄道の敷地であったことを偲ばせる杭が立ち並ぶ引き上げ線の跡。雨に当たって少し散り始めの桜でしたが、回復して来た天候の中で実に美しい姿を今年も披露してくれました。
勝沼の駅は甲府盆地を見下ろす高台にありますが、引き上げ線は本線を見下ろすさらに高い位置にあって、満開の桜越しに盆地の風景と北アルプスが良く見えます。眼下には勝沼のブドウ畑が広がり、遠くの山梨市や春日居町方面は平地部分に桃の花のピンクが春霞の中でうっすらと見えて、甲州に春が来たことを実感させてくれます。
E351のスーパーあずさ、E257の特急かいじ、そして115系の普通列車。中央東線といえば長年そんなイメージではありましたが、平成26年から115系に替わって211系が、そして昨年春から特急列車もすべてE353系に統一され、全列車の指定席化が実施されました。そう言えば特急あずさは「スーパー」の冠もなくなっちゃったんですよね・・・E353、デザインとしても悪くないし全然いいんですけど、E351やE257、臨時で189系や215系なんかがバラエティ豊かに駆け回っていた少し前の東線の風景を知っているだけに、統一感の影で失われた多様性に思いを巡らせてしまうのは撮り鉄の性か。
E353のパープルは、先代のE351の淡いラベンダーのような色合いに比べて色味がハッキリとしていて、菖蒲のように鮮やかな印象を受けるのですが、これが「和」な感じを一層引き立てていて、日本の「和」を代表する桜の花と相性抜群。うっとりとするような春の甲州を、新鋭特急電車が駆け抜けていきます。