青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

エンジンの 音高らかに 吉ヶ原

2020年03月19日 23時00分00秒 | 片上鉄道(保存鉄道)

(小荷物窓口@旧吉ヶ原駅舎内)

吉ヶ原駅の駅舎内。出札窓口に掲げられた「手荷物小荷物取扱所」の掲示板や、当時の看板広告がいい味を出しています。中では運転会の準備で保存会の方々が忙しそうに動き回っていました。この手荷物窓口は、現在では保存会の方々が制作する片鉄グッズや米粉パンを売ってる売店になりますが、美味しそうなパンの香りに誘われて、グッズと昼食代わりのパンを購入。吉ヶ原の駅のある集落には、とりあえずあまりメシを食べるような店も場所もないようなので、この売店のパンはありがたかったですね(笑)。

片鉄の運転会には、売店の右側にある窓口で300円の一日乗車券を購入する事で参加出来ます。出札口の上に残されていた運賃表・・・いやあ~、独特の書き文字がいいですねえ。いつの時代のもんなんでしょうか。こんな岡山の片田舎から東京都区内まで2,630円、大阪720円。片鉄の初乗りが30円ですか。おそらくながら、昭和30~40年代くらいのものなのではないかと思われるのですが定かではありません。保存会の方から購入した硬券のきっぷ、令和2年2月2日という事で-2.-2.-2の打刻がされていました。

運転会は10時ごろから始まるという事で、本線ではキハ702の試運転の真っ最中。試運転を試運転のままにせず、試運転なのでしっかり試運転のサボを差すという徹底したこだわり。片上鉄道が、片上~柵原間の33.8Kmを廃止したのは平成3年の夏のこと。それから30年弱に亘って、岡山の山中で地道に続けられて来た保存活動。悠久の時を経て、今日もなおピッカピカのキハ702が吉ヶ原のトンガリ屋根の影を映して。エンジンからの唸り声もまた頼もしく構内に響き渡ります。

試運転で吉ヶ原~黄福柵原(こうふくやなはら)の間を往復するキハ702。運転線は400m程度の長さがあって、吉ヶ原の構内から田んぼの横の緩やかなスロープを上がって行くと、終点の黄福柵原駅になります。吉ヶ原構内からポイントを渡り、警手小屋のある踏み切りを通り、桜並木を横目に田んぼ脇のスロープを登って黄福柵原へ。短い割にはなかなか撮影ポイントが詰まっています。線路脇にだらーっと垂れ下がった通信用の電線も、ローカル私鉄らしいといえばらしいもので・・・

試運転が終わり、吉ヶ原駅の2番ホームに据え付けられたキハ702。車掌さんが試運転サボから「黄福柵原-吉ヶ原」の本運転サボに取り替えました。運転会は午前10時から午後3時まで、お昼休みの1時間のインターバルを除けばだいたい30分に1回吉ヶ原~黄福柵原の間を往復します。乗るのも撮るのも自由気まま。運転会の時刻になって、徐々にファンの数も増えて来ました。美作の国の山峡に、月一回の賑わいの日が始まります。

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在りし日の ヤマの賑わい そのままに  

2020年03月16日 22時00分00秒 | 片上鉄道(保存鉄道)

(美作線・ネオポリス東5丁目行き@宇野バス)

岡山駅1Fのマックで軽く朝メシを食った後、岡山駅前12番乗り場から宇野バスの「ネオポリス東5丁目行き」に乗る。岡山駅は地方交通のオピニオンリーダーとしても著名な小嶋光信総帥がトップを務める両備バス、同じ両備グループの岡電バス、そして岡山県東部に勢力を持つ宇野バスの3社のバスがとにかくひっきりなしに駅前のロータリーに入って来る。結構バス会社同士の並行路線での鎬の削り合いに加え、新規参入の業者が入り乱れて岡山中心部のバス事情は群雄割拠の状態なんだとか。

今日は岡山県のとある山奥まで、前々から行きたかったところがあるのでこんな朝早くからよく分からない行き先(失礼)のバスに乗っている訳なのですが、走り出した宇野バスは岡山の中心部を抜け、旭川に沿って東へ向かって行きます。しかし岡山のバスは料金がおっそろしく安いのね・・・初乗りが100円スタートで、中心市街を抜けてしばらく経っても200円を超えない。津山線の法界院駅前を通ったのだが、ここまでで岡山駅から140円。津山線で150円。バスが鉄道より安いってあまりないような。

宇野バスを赤磐市の新道穂崎バス停で下車。今度は赤磐市の広域路線バス・湯郷温泉経由林野駅行きに乗り換え。病院の送迎車のようなマイクロバスである。コミュニティバスだからしょうがないか。岡山からのネオポリス行きには色んな客が乗っていたんだけど、ここで乗り換える人間の顔ぶれを見るとだいぶ目的が絞り込まれたような気がする(笑)。

バスは県道27号線を北に北に進んでいく。次第に車窓は中国地方の中山間地に変わり、枯れた田んぼに霜が降りるような朝の風景の中を走って行く。一応各集落に停留所らしきものはあれど、乗る人も降りる人も極めて稀な利用状況である。それにしても新道穂崎から姫新線の林野駅までは片道40kmくらいあるのだからえらい長距離のコミュバスだな。前の日に琴電志度から乗ったコミュバスも相当のロングランだったけど・・・

バスはいくつかの峠を抜け、吉井川沿いの流域に入って行く。林野駅行きのバスを「高下(こうげ)」で降りる。新道穂崎から約50分で550円。高下のバス停は、旧赤磐郡吉井町の周匝(すさい)地区の外れにあり、周囲を山に囲まれた何という事もない静かな農村であった・・・のだが、ここで新道穂崎から乗った10人弱の乗客の全員が降りた(笑)。みんな行くトコは一緒だよってか。

コミュバスの高下バス停から、T字路を右に折れて100mほど行った場所に「中鉄北部バス」の高下バス停がある。「中鉄」って鉄道会社なの?という疑問があるのだが、元は現在のJR津山線や吉備線を運営していた「中国鉄道」というれっきとした鉄道会社だったそうだ。両線が戦時買収により国有化された後は、バス専業会社として岡山県の北部にネットワークを持っている会社なんだそうで。

やって来たバスは、こんなレトロな車両まだ使ってるんですね、というような感じの90年代前半っぽい日野の古い路線バスだった。高下発の津山駅前経由スポーツセンター行き。余談ですけど岡山・広島にはかつては鉄道会社だったバス会社と言うのが結構あって、この中鉄バスの他にも下電バス(下津井電鉄)、ともてつバス(鞆の浦鉄道)、井笠バス(井笠鉄道)なんかがそうだったっけな。

高下を出たバスは、吉井川の左岸を15分程度走ったあと、右に曲がってトンガリ屋根の駅舎の前で停まり、バスの乗客が全員下車しました。ここが今回の目的地である旧吉ヶ原(きちがはら)駅。平成3年まで、瀬戸内海に面した片上港から、山陽本線の和気駅を通って旧柵原町の柵原鉱山を結んでいた同和鉱業片上鉄道。東洋有数の硫化鉄鉱の鉱山として栄えた柵原鉱山ですが、閉山後はここ吉ヶ原の駅を中心に「柵原ふれあい鉱山公園」として整備され、その中には柵原鉱山の栄華の歴史を伝える博物館と、鉱石の出荷の中核を担った片上鉄道が、「片上鉄道保存会」の皆様の手によって保存されているのです。

なんとなく、街道沿いのドライブインを思わせるような、トンガリ屋根がお洒落な吉ヶ原の駅。「片上鉄道保存会」の皆様の凄いところは、ただ昔に使われていた車両と駅を保存しているだけでなく(それだけでも凄い事ですけど)、実際に車両も線路も運転できる形・・・いわゆる「動態保存」で鉄道を保存しているところにあります。今日はそんな片上鉄道保存会の月一回の運転日。これを目当てに、岡山からバスを3本も乗り継いで、2時間かけてここまで来たんだってばよ。

ホームに出ると、今日の運転会の使用車両と思われるキハ702号が、ガラガラガラ・・・と独特のアイドリング音を奏でながらスタンバイ中。元国鉄キハ07形。1930年代製造のクラシカルな気動車です。こんな鉄道博物館で保存されていてもおかしくない半流型のレトロ気動車が、今でも生き続けている吉ヶ原。この片上鉄道の保存運転は、長い事行きたいと思っていた場所でもあり、感慨深いものがありますね。この日は運転会を楽しみながら、在りし日の鉱山町に思いを馳せる、そんな一日になりそうです。

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闇を突き 走る列車は 備前路へ

2020年03月15日 17時00分00秒 | 片上鉄道(保存鉄道)

(さすがに人影まばら@高松駅)

1月の高松・岡山旅。高松編を終了しましたが、今回からは岡山編。3日目の朝をばあちゃんのビジネスホテルにて迎える。お勘定は初日のチェックインの時に2泊分払ってしまったので問題ないのだが、さすがに朝早いので「受付にカギ置いて出てくからいいよ」って言ったのに、ばあちゃんは物音に気付いたのかわざわざ寝間着姿で起きて来て見送ってくれた。なんだかんだと世話焼きなばあちゃんであった。日曜日の朝5時の高松駅前は、さすがに人影もまばら。

岡山方面に向かうには瀬戸大橋線。ということで5:35発の「快速マリンライナー4号」に乗車。ホームから5:17発の予讃線始発の特急いしづち101号が出発して行った。しかし5:17発の特急列車って日本有数の早さなんじゃないかと思う。昔は日本海縦貫線を走り抜けた特急「白鳥」に青森発4時台とかあったけど、あれは夜行の青函連絡船に接続するという使命があったからねえ。という事で調べてみたのですが、日本一早い時間に出発する特急列車は出雲市4:42発の「特急やくも2号」みたいです。早過ぎ(笑)。

「快速マリンライナー」は、高松側の車両が2階建てのグリーン車両であるJR四国の5000系+普通車のJR西日本223系5000番台で運行されております。1編成で2つの会社が混在しているのって珍しいね。そうでもないのか。さすがにこの時間のマリンライナー、だーれも乗ってないです。それでもこの1本前に4:35発のマリンライナー2号があるんですよね・・・始発のマリンライナーは岡山6:01始発の「のぞみ84号」に接続していて、四国から東京を意識したダイヤになっているのだなあと。ちなみにのぞみ84号の東京到着は9:18。東京駅から30分圏内にあるオフィスの10時からの会議には間に合います。

明るけりゃ車窓に浮かぶ瀬戸内の島々を眺められたのだろうけども、時間が悪すぎたので缶コーヒーを窓際に置いてうたた寝するのみ。朝5時半発のマリンライナーは、まだ漆黒の闇の中の瀬戸大橋を轟々と走って、約1時間で岡山に到着。ホームで並んだJRWの117系が真っ黄色だったので、山陽地区に来たんだなあという感じがする。黄色と言うよりは山吹色なのでちょっと野暮ったい。瀬戸内なんだからレモンイエローとかにすればいいのに。

ホームでは、ちょうど到着した「サンライズ瀬戸・出雲」の分割作業が実施されていて、多くのギャラリーが連結面に集まっていた。既に鉄道ファン的には岡山の名物となっているようで、朝早いながら乗客の子供の姿も目立ちます。今や全国でこの一本だけになってしまった寝台特急の旅に興奮して全然寝れなかったんだろうなあ、なんて考えると、その姿も微笑ましいものがあります。

中央改札口に横たわるのは、岡山駅の列車の発着を知らせる大電光掲示板。左から山陽上下・伯備・智頭・赤穂・瀬戸大橋(予讃・土讃線方面)・宇野・津山・総社(桃太郎)線の発着が掲示されていますが、日本でも有数の乗り換え路線の多さですよね。新幹線に乗ってると、岡山の駅到着直前の車掌の乗り換えアナウンスって5分くらい喋ってるような気がするもの。

払暁の岡山駅前。一応ファイルの履歴を見たら6:40頃みたいなのだが、ようやく東の空が明るくなって来た西の国の遅い夜明け。駅前の電停に、東山行きの岡山電気軌道線始発電車がやって来た。岡山の路面電車には、東武鉄道の日光軌道線に使われていた車両(3000形)がいてたまーにイベント的な扱いで走るようなんですが、見てみたいもんですね。

まだ夜も明けきらず寒い寒い岡山駅前。電車に乗る訳でも市電に乗る訳でもなく、バス乗り場に行ってみる。まだ乗るバスは来ないんだけど一応ね。乗るバスは宇野バスの7:21発のヤツ。美作線って名前が付いているらしい。さすがに40分前からバスに乗るのに並んでる人もおりませんので、とりあえずバス停の場所は確認出来たから、バスの時間までマックで時間を潰すことにしましょうか・・・。お~寒みい。

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讃岐路に 夢を繋げて ことことと

2020年03月12日 22時00分00秒 | 高松琴平電気鉄道

(片原町の夜は更けて@片原町駅)

レンタカーを返し、宿で荷物を片付けて、カメラ一つで身軽に飛び出した夜の高松・片原町。どこか気の利いた店で少し一人で酒でも・・・などと思ったのだけど、どうにも腹が減って大した店探しもせずに路地裏のラーメン屋に飛び込む。讃岐うどんのいりこのダシにやや飽きた舌に、味噌バターコーンラーメンと餃子が沁みる。軽く頼んだ一杯の生ビール、別に豪華な物を食べなくても感じられる、旅先の愉悦である。

高松市の中心部に、文字通り中心をなす中央商店街と、西へ伸びる兵庫町商店街、そして東に走るのが片原町商店街。高松三越を中心に、大小の小売店が立ち並びます。土曜日の夜の人通り、どこも地方都市の夜はシャッター街で寂しい・・・というのが通説のようになっているけれども、それでも高松の夜はそれなりに酔客の大きな声などが響いていて活気があった。さすがに人口40万都市の高松市の中心街ではあります。

ことでんの片原町駅は、片原町商店街の東の端にあって、「マルヨシセンター」というスーパーが併設されています。このスーパー、高松を中心とした瀬戸内地区に展開する小売店のようですが、開店時刻は8:00~23:00とことでんの終電間際まで開いていて、地方のスーパーにしては営業時間が長い。あまりコンビニエンスストアが目立たない地区だけに、頑張っているのかもしれません。ホームは相対式の2面2線、複線区間の駅であり、また琴平線・長尾線とも築港直通の電車が入って来るため、ひっきりなしに構内踏切が鳴っては電車が行き交います。

ホーム上の人の乗り降り、そして夜8時を過ぎて徐々に少なくなっていく人通り。大きなアーケードの切れ目にあるのが片原町の踏切で電車を待つ。踏切脇の飲み屋からポツリ、ポツリとおあいそをしたお客さんが出て来ては、片原町の駅へ向かって行く。電車が通る以外の時間は店へ入る訳でもなく、カメラも触らず所在なげに佇む私を、居酒屋の女将さんが不思議そうな顔で見ていた。

「IruCa」対応の自動改札が設置されてはいながら、片原町の駅では電車が着くたびに駅員さんが詰所から出て来て「〇〇分築港行き電車参りま~す」「長尾行き電車参りま~す 踏切渡って2番線お回り下さ~い」などと声掛けを行っている。おそらくギリギリに駆け込み乗車をするような客がいた場合、下り電車の場合構内踏切の直前横断が懸念されるからではないかと思われる。ホームには接近放送がなく、電車の接近が分かりづらいからなのかもしれないが、何となく昔っからこうだったんだろうな、という人の声の力の温かみか。

片原町から、琴平線の電車に乗って築港駅に戻る。時刻は午後10時を回ったとはいえ、それなりのお客さんが乗っているのは頼もしい。二日間沿線を回ってみて思うのは、各線の末端区間はともかく、高松市内中心部から10km圏内程度のエリアでは、ことでんのフリークエンシーの強さを感じます。仏生山までの複線化完成で、日中の増発とスピードアップが図られれば、クルマ社会となった高松経済圏の域内移動のシェアを少しでも切り崩すことが可能なのではないか・・・と水銀灯に照らされた石垣を眺めて考えてみたり。

夜も更けて、高松駅前の空気もきっぱりと冷え込んで来た。間近で見るサンポートのタワーの灯りが眩しい。30Fには無料展望台もあるんだそうだが、今回は訪れる機会に恵まれませんでした。駅前のミニストップで寝酒を買って、ばあちゃんの待ってるホテルに戻ろう。

瓦町の駅に貼られていた、写真家のレスリー・キー氏が撮ったことでんの一枚に、とても目を奪われた。滝宮駅のレトロな駅舎と、駅前の自転車置き場の鉄柵に乗っかって明日を夢見る子供たち。「同じ一日なんてない。ドキドキしながら、ちょっと遠くへ。」というキャッチコピーが、高松の旅を終えて一ヶ月が経って、より真に迫って来るような気がする。あっという間に全世界に広まってしまった新型ウィルスによって、不要不急の旅が諫められる風潮になってしまった現在。ちょっと遠くを目指すことも憚られる状況で、果たして子供たちは明日を夢見る事が出来るのであろうか。冒険する自由の危機が、すぐそこに迫っているような気がしてなりません。

ことでんの心臓部である仏生山の駅で、改札口の隣で待っていることちゃんファミリー。ことでんも、春のイベント・・・特に23号の引退を間近に控えて、月一回のレトロ電車の運行や3月の電車まつりの中止、そして個人催行の電車の貸し切り運行なども軒並み中止に追い込まれてしまいました。それでも、開催の中止を伝えるTwitterのメッセージに「あきらめたら、じえんど」というスタンプを添えて来たことちゃんは、したたかに春を待っています。

約一ヶ月に亘ってお送りして来たことでんシリーズも、ここで一応の大団円という事で・・・
いつかまた再び、玉藻のお堀端で。

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茜空 千鳥魚食む 春日川

2020年03月10日 21時00分00秒 | 高松琴平電気鉄道

(夕日に向かって@八栗~古高松間)

高松は、東京に比べると朝が遅い分夕方が若干長い。それでも、房前の鼻からレンタカーで走って行くと、どんどんと太陽は西に傾いていく。18時にはレンタカーを返却する段取りになっているので、志度線の線路に沿いながら高松市内へ。八栗駅から古高松の駅にかけては、バックに八栗山を従えながら夕日に向かって走る志度線600形。低い低い夕陽が車体の隅々までを照らします。

潟元の下り坂を、夕陽を背にして降りて来る志度行き。太陽は雲間に沈み、残照が空を焼いて非常にいい雰囲気になって来た。日の沈む30分前から日の入り後の1時間くらいまでが一番のシャッター数の稼ぎ時と言うか、ドラマティックな空の表情と合わせると、鉄道車両もいつもに増して魅力的に見えて来る時間帯です。踏切でカメラ持って構えていたら、通りすがりのばあちゃんに「何か珍しい電車でも来るんですか?」という撮り鉄あるあるな反応をされてしまったのだが、「ゆ、夕焼けがきれいなんで!」みたいなロマンチスト的発言をしてしまった。別に珍しい電車が来なくてもいい。地方私鉄は、普段の姿が一番いいんだから。

春日川の水面に夕映えの高松の空が映る。どこからともなく飛んできた浜千鳥が一羽、川の干潟に降りて来て、水際で小魚を狙い始めました。鳥たちの夕餉時を横目に、春日川を渡る志度線の小さな車両は、低いガーター橋の鋼製の枠に半分くらい隠れてしまいました。

少し高い位置から、遠く五色台を眺めつつ暮れてゆく高松の街を望む。川の向こうにぽんやりと明るいのが、春日川の駅。ゴルフ場の漆黒の森の向こうに、高松サンポートタワーが青く輝きます。レンタカーの返却時間が迫って来ました。川面に電車の灯りがゆらゆらと揺らめけば、二日間に渡って回って来たことでんの旅も、そろそろフィナーレです。

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