(懐かしの白ポスト@池戸駅)
平木からお次は池戸駅に移動。住宅街の軒先裏にある、少し狭めの1面1線のホームの駅。駅がせせっこましいので駅名票が一つしかないのだが、駅名票よりもその横にある懐かしの白ポストの自己主張が激しかった。こんな時代に有害図書をポストに投げ込むだけで青少年のリビドーが止まると思ったら大間違いなスマホで何でも見れてしまう時代ではありますが、個人的には子供の頃に読んでたカラーブックスの「日本の私鉄」とかヤマケイハンドブックスの「日本の大手私鉄シリーズ」とかのほうがよっぽど有害図書だったな。そういうの読んでたらこういう大人になりますよってことで。
池戸駅は、別に何の変哲もない住宅街の駅。どうしてこの駅に降りたのか、と言うと、駅の周辺に広がるアーケードの商店街を見てみたかったから・・・と駅前の道路を見渡してみてびっくり。アーケードの商店街がなくなってる!駅前の石造りの風趣ある仏具店も、引き戸を閉ざしてひっそりと時の流れになすがまま。二階の窓に張られたガムテープのバッテン印が灯火管制下の空襲対策のようで、そのまま時代がトリップしてしまいそうだ。
駅前通りを四つ角まで。ここで交差する道が、旧長尾街道と聞く。事前の調査では、この十字路を中心に古めかしいアーケードの商店街が四方に走っていたはずの池戸の商店街。まあ最近は毎年のように強力な台風が上陸したりするし、見た目からして老朽化していたアーケードは危ないってことで撤去されてしまったのだろうけど、残念なことです。角のお肉屋さんも土曜日だから開けていないのか、そもそも商売を畳まれてしまったのか。僅かに歯医者さんの入ったビルのところだけにトタン屋根のアーケードが残っていて、往時の雰囲気を感じさせてはくれるのでありますが・・・冷静に考えたら「遠く神奈川からはるばる池戸のアーケードを見に来た人間」って自分の偏執的な部分が煮詰まったようで少しお恥ずかしい部分もあるな(笑)。
ちょっとGoogleセンセのお力をお借りして、その当時の商店街をプレイバックしてみる。この絵面が2012年らしい。もう8年も経てばこうも変わってしまうのか。活気の部分は大して変わってないような気もするが、駅から続く東南アジアのマーケットのような高く抜けた鉄骨組みの大屋根のアーケードは設備としてはそこそこ大がかりなもので、この商店街の往時の賑わいを感じるには十分すぎるストラクチャー。この四つ角の裏手にはアパートに併設された銭湯というエモい昭和物件もあったんだけど、そこもおそらく銭湯としては機能を終えているようで、池戸の商店街は静かに眠りに就いているようであった。
思い描いていた池戸の駅周辺の姿はきれいさっぱりなくなっていて、生活感あふれる立派なアーケードの向こうを走る長尾線、という構図にはならなかった。それでも僅かな在りし日の残滓を取り込んで、長尾行きの電車を見送る。電車から降りてきた学生が、アーケードのコロニーの中核をなしていたであろうスーパーに入ってパンとジュースを買って行った。高校生の旺盛な食欲と小腹を塞ぐのはコンビニの役割に取って代わられた昨今ではありますが、かつて池戸の駅前には小腹どころか家族の食卓を支える充実した流通の小宇宙があったはずである。流通の小宇宙なんて面倒な言い回しをしてみたが、それを日本じゃ商店街って言うんだよ。知ってた?
築港行きの電車が戻って来た。駅に一番近い位置にある呉服屋は、Google先生の時代より改築されたのか、セットバックされて新しく明るい建物に代わっていた。蔵造りの建物と焦げ茶の板塀が明るい午後の日差しに映えておりますが・・・よく考えると池戸の駅は駅を降りると右が仏具屋で左が呉服屋だったんですねえ。冠婚葬祭何でもござれ、本日はお日柄も良くご愁傷様という感じだったのだろうか。
小走りに池戸の商店街をカメラに収め、ホーム脇の中途半端な場所で乗ろうか乗るまいか逡巡していた私に声をかけた車掌さん。アーケードがあったら、空が茜色になるまで待ってみようか。そんな気持ちでいたんだけど、後ろ髪をひかれつつ声に押されて車内に駆け込めば、背後でドアがプシューっと独特の京急音を立てて閉まったのでありました。